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【2000年11月 渡良瀬有情】

川霧の季節

撮影・文 堀内洋助


 紅葉前線が山から降りて、標高16メートルの渡良瀬遊水地は秋色の風景を迎えた。東京湾から60数キロ北、関東平野の内陸に位置する日本屈指のアシ原は晩秋の11月、雄大な川霧を見せてくれる。

 夜明け前、地球の大地から沸き立つゆげが、幻想的な世界を創造する。揺れ動き、盛り上がる姿は、白い生き物のようだ。薄明のモノトーンから朝日を浴びて黄、橙、赤に色を変幻させる光景も圧巻だ。特に、アシ原の木立ちに漂う景色はまるで日本画を彷彿させるように美しい。

 私は、川霧の移ろう風景を見ているといつも心が和んでくる。仕事や人間関係や様々な悩みのストレスから、いやしてくれるようだ。川霧に出合った日は、一日壮快な気分で過ごせるから不思議だ。人生はストレスとの格闘であり、川霧の光景は心をいやす栄養剤なのだろうか。

 川霧は一年中発生するが、特に早春と晩秋に雄大な規模になる。寒暖差が大きく、移動性低気圧が大地に湿度を与えるからだ。前日に気温が高く、放射冷却で冷え込みがあり、風のない晴れた朝が条件だ。しかし、雲海のような見事な川霧は少なくなった気がする。遊水地の乾燥化が進んでいるのだろうか。冷え込んでも、木枯らしが吹いたりして、がっかりする日も多い。この時期は毎日、天気予報に一喜一憂する日々。低気圧が通り過ぎ、移動性の高気圧に覆われた2〜3日後がベストだ。

 一年で一番美しい朝焼け、高鳴きのモズやアシ原を飛ぶチュウヒ、点在するヤナギの木立ち、アシやススキの白い穂が川霧の環境を魅力的にさせる。いやしの景色である川霧は、全国的な湿地の減少と共に出合う機会が少なくなった。21世紀へ伝えたい日本の原風景がここにある。

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