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【2003年2月 渡良瀬有情】

名水の里

撮影・文 堀内洋助


 栃木県には環境省が認定した日本の名水百選が二カ所ある。塩谷町の尚仁沢湧水と佐野市の出流原弁天池湧水だ。

 後者は渡良瀬川水系にあり、湧水は出流川から旗川に入り、足利市の区界の佐野市南西部で渡良瀬川に合流する。清き水で渡良瀬川を潤す名水の里を1月下旬に訪ねた。

 夜明け前、佐野市街地から北西に約6キロの出流原弁天池に着く。周囲138メートルの丸い池で、地下水が古生層石灰岩の亀裂からわき出してできたもの。水辺から、南東の薄明の空に有明の月と金星が並ぶ姿が見える。実に心が和む光景だ。 

 明るくなり、清く澄んだ池をのぞくと、色鮮やかなコイの群れが悠々と泳いでいた。突然、「チィー」と鳴いて、カワセミが朝の食事の小魚を捕りに現れてくれた。

 池の横に湧水の飲み場がある。まろやかで実においしい水だ。石灰層を通る間に、マグネシウムやカルシウムのミネラル分がほど良く含まれるのだろう。大きなプラスチックのタンクで水をくみに来た人は「秩父や群馬にも行ったが、ここが一番だね。飲んでもおいしいが、ご飯を炊くと味が全然違うよ」と話していた。

 池の裏山に登ると、山道には落ち葉がたい積して自然環境が豊かだった。途中にカケスの羽が落ち葉に散乱していた。褐色の中に青い模様が目立つ。タカの食事の跡だろう。

 約20分で山頂へ。展望される南北の光景は実に対照的だった。池のある南はのどかな田園風景が広がるが、東から北にかけては石灰鉱山と砂利採石場で荒涼としていた。昨年夏、台風の後に池の水が白く濁ってしまう出来事があった。石灰鉱山の工事の影響という。自然の営みが奇跡的に作り上げた名水に異変があったことが悲しい。

 また、この山のすぐ北で北関東自動車道のパーキングエリアの建設が計画中だ。2010年開通予定という。水源地そばにこのような人工物を作って大丈夫なのかと危惧の思いに駆られた。

 帰りに同池から南へ約3キロ余の小中町にある田中正造生家を訪れた。墓の碑に「冬ながら啼かねバならぬほととぎす 雲井の月の定めなけれバ」の正造の和歌が刻まれていた。

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