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【2003年6月 渡良瀬有情】

初夏のヨシ霧

撮影・文 堀内洋助


 渡良瀬遊水地の夜明け前、薄明のアシ原に川霧が漂い始めていた。乳白色の帯が一面に広がり、木々の頭がその上にポッカリと浮かぶ。川霧の上空には有明の月が見えた。月が欠け終わりを迎えるさびしい趣が、何故か心をいやしてくれる。明るさで月が消えると、地平線から淡い色の太陽が顔を出した。まるで墨絵のような幽玄な世界を鑑賞する思いだった。

 初夏の川霧が漂う渡良瀬遊水地は日本屈指の風景だと思う。いま成長著しいアシは日々大地から水を吸い上げて、ろ過した水を一滴一滴と葉先から落とす。アシが水を浄化する能力は古くから知られている。葉いっぱいに付けた水滴が初夏の川霧を潤すのだ。

 「この霧は川霧よりヨシ霧の名がいいね」とNHKのさわやか自然百景の取材で訪れたディレクター柴田佳秀さんは語った。友人の彼から「渡良瀬遊水地の番組を作りたい」と連絡があり、少しばかり案内した。初めて出合う「ヨシ霧」に、「こういう光景はほかでは見られない」ととても感動していた。

 柴田さんは自然の営みの番組制作で海外取材も多く、優秀なナチュラリスト。野鳥と昆虫が大好きで、特にカラスに造詣が深い。今回案内する私が、実は逆に案内されることが多かった。この時期ヤナギの木が白い綿毛に包まれた種子を空中に飛び散らせ、生命を宿していく。まるで降る雪のようだ。今まで何気なく見ていた光景をあらためて教えられた。また、彼は絶滅危ぐ種サンカノゴイをいち早く見つけた。実は10年来、私がここで出合いたいと探し求めていた野鳥だった。

 番組のロケは5月下旬の10日間行われた。ハイビジョンで撮影を担当した板倉達也さんは「ヨシはこの時期成長が早く毎日5センチ伸びるという。10日間で50センチ。帰るころには車窓から遠くが見えなくなっていた」と名残惜しそうだった。ヨシとオオヨシキリの営みが一番気に入ったという。

 さわやか自然百景「渡良瀬遊水地」の番組放映は、NHKで今月29日の日曜日、午前7時45分から14分間の予定という。多くの人に見てもらいたいと思う。取材に訪れた二人から、別れ際に「ヨシ焼きの日に必ず来ます」と言ってくれたのが嬉しかった。

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