東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 栃木 > 渡良瀬有情 > 2003年度 > 2004年3月

ここから本文

【2004年3月 渡良瀬有情】

春光

撮影・文 堀内洋助


 北海道・中標津町に暮らす写真家の久保敬親さんが、渡良瀬遊水地に初めて訪れた。久保さんは日本の自然環境に視点を置いて、野鳥と動物たちが命をはぐくむ姿を、感動的な映像で撮り続けている。狙いはハイイロチュウヒだった。

 広大なアシ原が広がる遊水地を見て、久保さんは「タンチョウでも繁殖できるような場所だ。それだけのキャパシティがある」と豊かな自然に感動していた。タンチョウはもともと関東平野にもいたという。

 旧谷中村の屋敷林が残るアシ原で、夜を過ごした。「ミャーミャー」という猫のような声が林から聞こえた。フクロウの仲間のトラフズクと久保さんは語った。静かな月夜の晩に、心地いい鳴き声だった。

 朝はマイナス十度で、早春には珍しい冷え込みだった。西の空の薄明に十六夜月(いざよいのつき)が残っていた。いい光景だった。上空に「ミャー」と鳴いてトラフズクが飛んだ。

 枯れアシの中から、日の出を撮影した。1200ミリ相当のレンズでカメラをのぞくと、アシが日の光を反射し、炎を上げて燃えているように感じられた。太陽が動くスピードは速い。一瞬、タカが朱色の世界を横切った。ノスリかチュウヒかトビだろうか。

 アシ原に隣接する谷中湖(渡良瀬貯水池)でいま、水を抜く干し上げが実施されている。市民団体「渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会」と「日本野鳥の会」関東九支部は、「越冬する水鳥などの生態系保全と水質改善の面から大きなマイナスをもたらす行為である。干し上げは底泥が空気に触れて酸化が進み、藻類の増殖が一層ひどくなる」として、国土交通省利根川上流河川事務所に作業の中止を申し入れた。

 同事務所は「カビ臭に対し、最も効果がある水質改善の重要な施策。天日乾燥で、異臭の原因となる植物プランクトンの死滅も促進できる」という。

 谷中湖の水が抜かれ、泥の大地が顔を出した。足尾鉱毒事件で鉱毒沈殿地になる以前は、谷中村の豊かな田園と湿地があった。その大地は辛酸な歴史を語っているようだった。

 春の景色を春光という。早春にふさわしい語感を持つこの言葉が好きだ。春めいた光景に出会うと希望が感じられる。春光の中で出会う悲しみの情景には心を痛める。いつも自然の営みは人生の師なのだと思う。

バックナンバー