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【2004年6月 渡良瀬有情】

薫風の朝

撮影・文 堀内洋助


 6月は一年で一番朝の早い日々が続く。きょうの日の出は午前4時26分。21日の夏至は同25分で昼の長さが一番長い。今月の30日間は、4時30分前に太陽が昇る。朝が早いのはうれしい。自然は日の出前後にいい光景を見せてくれる。”朝の一枚”を撮り終えて、ゆっくり出勤することもできる。

 先月下旬、渡良瀬遊水地に朝のアシ原を歩いた。午前4時ごろ、薄明に川霧の乳白色の帯が漂っていた。数多く出会ったが、毎回違う情景に魅了される。夏は雨が降り、その後晴れて涼しい朝が現れやすい。

 渡良瀬川と巴波川の合流点の木に今年もカワウのねぐらがあった。川霧がここでは靄になり、視界が悪かった。「カッコー、カッコー」の声が靄の中から聞こえた。まるで高原の朝を彷彿させる。ここは標高16メートルの湿地帯なのだが、カッコウが目立つ。托卵(たくらん)相手のオオヨシキリが多いからだろう。

 午前6時、同遊水地北端にある赤麻寺の鐘が「ゴーン」「ゴーン」と時を告げた。郷愁を帯びた心打つ音色だ。靄の空気層がそう感じさせるのか。この音は明治時代に田中正造も谷中村住民も聞いたであろう。明治政府による谷中村強制破壊は1907年6月下旬に起こった。97年の歳月が流れたが、赤麻寺の鐘は鉱毒沈殿地として生まれた遊水地に今も響き渡る。

 辛酸な歴史を背負った遊水地は、釧路湿原に次ぐ日本屈指の湿地帯になった。湿地に生きる野鳥や昆虫や植物などの貴重な営みが見られる。植物は約700種が知られ、環境省レッドデータブックの絶滅危ぐ種が49も確認されている。

 同遊水地の植物を研究する栃木県植物研究会の大和田真澄さんは、今年から定例観察会を実施している。5月から10月の各月第1日曜日、午前10時から2時間。谷中湖北駐車場集合。植物に関心のある方はだれでも自由に参加できる。参加費無料。今月は6日。

 先月2日の観察会には家族連れなど約30人が参加した。絶滅危ぐ種トネハナヤスリ、ノウルシ、チョウジソウなどが見られた。特に日本固有種のエキサイゼリは「世界的にも貴重。ここでなくなれば世界から消えてしまう」という。

 夏の南風を薫風という。初夏の湿地を渡る風はさわやかな自然の匂いを感じさせてくれる。特に朝がいい。早起きして、五感で遊水地の自然の営みを体験すると心癒される。

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