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【2005年6月 渡良瀬有情】

初夏の源流

撮影・文 堀内洋助


第24回目・初夏の源流

 夏めく季節を迎えた5月28日、渡良瀬川源流の栃木県足尾町の松木沢を訪れた。足尾銅山の製錬所からの亜硫酸ガスで緑が失われ、荒涼とした褐色の山肌が広がる。新緑のころは特に目立つ。日本の公害の原点と言われる特異な景観であり、「日本のグランドキャニオン」と称している。

 松木沢には川沿いに歩きやすい道がある。早朝、急斜面をニホンジカの群れが移動するのが見られた。空にはアマツバメが群れて一日中飛び回る。カワガラスが子育てに励む清流では、数人のつり人が訪れ、イワナを狙っていた。岩壁に立つ木々の新緑と立ち枯れの木のコントラストに心を揺さぶられた。ここはいつも感動を与えてくれる。

 松木沢の南西にある庚申山である年の初夏、太陽の周囲に光の輪ができる日暈(ひがさ)と呼ばれる珍しい気象現象に出会ったことがある。自然が見せたいい光景だった。足尾の初夏に魅了される。

第25回目・源流の山

 低気圧が通り過ぎて青空が広がった6月1日朝、栃木県足尾町の半月山第2駐車場を訪れた。中禅寺湖スカイラインの終点で、標高1595メートル。ここは渡良瀬川の源流の山々を一望できる絶景の展望台。この日は運が良く、約170キロ先の富士山まで望めた。

 足尾山塊の久蔵沢と安蘇沢の新緑が美しかった。40数年間の本格的な緑化工事でよみがえった森だ。後方に煙害で荒涼とした山肌の松木渓谷が異彩を放っていた。急峻な地形のため緑化が遅れている所だ。新緑とのコントラストに心を打たれる。撮影していると、六十代ほどの女性が「緑がすごく美しい。若いころは一面荒れ果てた色だった」と感激の声をあげた。

 松木渓谷の奥に、皇海山(すかいさん)が見えた。栃木と群馬の県境に広がる足尾山塊の主峰(2144メートル)である。深田久弥氏の「日本百名山」の一座として知られ、渡良瀬川はここから始まる

第26回目・エニシダ満開

 栃木県足尾町の足尾ダム周辺の山を6月18日、訪れた。ここは製錬所に近いため煙害が最もひどく、草も木も生えない激害地に指定された地域。荒涼とした山の急傾斜地にエニシダの黄色い群落が広がっていた。まるで紅葉の季節のように鮮やかで美しかった。

 エニシダはマメ科の落葉低木。肥料や養分のない荒廃地でも育ちやすいため、肥料木として緑化に使われた。土壌をつくる当初は良かったが、生命力が強すぎて、他の樹木の生育を阻むでいるという。地中海原産の黄色い花木が繁茂する見慣れぬ風景である。

 大畑沢緑の砂防ゾーンがこの一角にある。十年前は草木もないはげ山が、市民団体「足尾に緑を育てる会」や国土交通省などの緑化作業で緑がよみがえってきた。今月は関東各県からほぼ毎日、小・中学生が体験植樹に訪れている。公害の原点である足尾の山に木を植えることで、環境問題を肌で学ぶことができる。

第27回目・ニホンザル

 梅雨の晴れ間が広がった6月18日、栃木県足尾町の大畑沢でニホンザルに出会った。煙害で荒廃したこの沢の緑化事業で、植樹されたヤマザクラが大きく成長して、見事なサクランボを実らせていた。ニホンザルは朝夕に毎日現れ、この熟した実を食べる。

 世界最北に分布するサルとして知られるニホンザルは、群れを作り森を移動して暮らす。人気のあるサルだが、奥日光では餌を与える観光客を襲う被害が多発する。足尾でも、農作物や店や民家を荒らす被害が多いという。以前、わたらせ渓谷鉄道原向駅付近で乗っていた列車が止まったことがあった。数十頭の群れが線路を歩いていた。

 サルと人との住み分けは大きな課題であるが、荒涼とした山にサルが戻ってきたことはうれしい。煙害で消滅した森がよみがえってきた証しであろう。足尾の山にはツキノワグマやニホンカモシカやイヌワシも生息するようになった。

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