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【2005年11月 渡良瀬有情】

晩秋の匂い

撮影・文 堀内洋助


第40回目・立ち枯れ

 渡良瀬川源流の社山には煙害で立ち枯れた木が数多く見られる。ササのじゅうたんに墓標のように立つ姿は、亜硫酸ガスのすさまじさを今に伝える。特に、山頂から黒檜岳(くろびだけ)に向かう途中の斜面に目立つ。鮮やかな紅葉とのコントラストが足尾の山の歴史を物語っている。

 「日本のグランドキャニオン」と呼ばれる松木沢にも立ち枯れは林立する。土壌が流れ、岩の上に立つ枯れ木は異彩を放つ。林野庁は国有林の荒廃地1670ヘクタールのうち、松木沢の右岸約400ヘクタールを現状のまま残すことにした。緑化を終えた山との植生の変化を観測し、治山事業や自然環境の研究に役立てるという。

 社山のアカマツの枯れ木に小さな木が芽吹いていた。紅葉して盆栽のように美しかった。実を食べる野鳥がフンをして、運ばれた種が発芽したのだろうか。足尾の山には人が植えなかった赤く色づく木々も目立つ。

第41回目・歪んだ太陽

 7日は立冬。二十四節気の一つで、暦の上ではこの日から冬に入るとされる。日の出時刻は6時8分。毎日1分ずつ遅くなり、今月30日には6時31分。日差しが弱まり、日暮れも早くなる。

 渡良瀬遊水地を訪れた時は必ず日の出を撮影する。日の出前の薄明で地平線の闇が赤から黄そして紫に変わる。光と色のドラマは感動的である。光が地球の大気中で屈折する大気差という現象で、時々歪んだ太陽に一瞬出会うことがある。日の出の光は長い大気を通過するからだ。

 同遊水地は東西約6キロで南北約9キロ、周囲約29キロ、面積約3300ヘクタール。釧路湿原やサロベツ原野などがある北海道を除くと日本最大の湿地である。豊かな自然環境を誇るアシ原越しに望む日の出はいい。正月の朝、西側の土手は初日の出を拝む人たちでにぎわう。古来、「日出づる国」と呼ばれた日本の原風景が心を癒してくれる。

第42回目・クモの巣と露

 晩秋の渡良瀬遊水地は川霧の季節を迎えている。夜明けごろだけに見られる気象現象だ。川霧が消えた後、露が付着して美しい幾何学模様をくっきりと見せるクモの巣に出会うことが多い。川霧の忘れ形見だろうか。朝日を浴びると露の玉が光り輝いて実に印象的である。

 空気中の水蒸気が凝結(ぎょうけつ)して水滴となったものが露である。秋に多く見られるので歳時記では秋の季語。昔から和歌や俳句に詠まれてきた。白露、朝露、夜露、露の宿、露の秋、露の命、露の間など。風が吹いたり日が当たると露は消えていく。そのはかない姿が心を揺さぶるのだろうか。

 露は水を循環させているという。大地から離れた水蒸気が水滴となって降りてくる。雨の少ない時期は植物の生育を助けてくれる。露時雨(つゆしぐれ)の草むらに入ると、服がびしょぬれになる。自然の営みにいつも感動する。

第43回目・冬の朝焼け

 渡良瀬遊水地のアシ原で19日、美しい朝焼けに出会った。冬型の気圧配置が強まり、木枯らしが吹き霜が降りて冬本番を思わせる朝だった。朝の空の光が大沼の水面に映った。刻々と色を変える夜明けのドラマに感動した。

 秋の川霧が終わると、楽しみは冬の夜明け。凛とした光景が心を癒やしてくれる。撮影する私の横でつりに訪れた初老の男性が「素晴らしい朝焼けは、今日の私の誕生日のプレゼントかな」と笑みを浮かべていた。この池はフナやコイなどが良く釣れ、昔の遊水地の景観を色濃く留めているという。

 この日は終日、強い季節風に見舞われた。寒さが身にしむが、北風は三つの楽しみを与えてくれる。印象的な雲の出現と関東平野を取り巻く山々の壮大な展望、ワシタカ類のひんぱんな飛翔である。特に富士山と浅間山、赤城山、男体山、筑波山が朝夕の色に浮かぶ姿に魅了される。

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