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【2006年4月 渡良瀬有情】

百楽の地

撮影・文 堀内洋助


第59回目・百楽の遊水地

 渡良瀬遊水地の4月、アシ原の風景は1年で一番活気に満ちあふれる。草木が芽生えて、ヨシ焼きの黒い大地が緑一面に。ヒバリ、ウグイス、ホオジロなどの野鳥が求愛でさえずり、チョウが舞う。夜明けに漂う川霧もいい。開発による全国的な湿地の減少で、日本が失ってしまった風景が遊水地には残っている。

 NHKテレビで1日、山岳写真家・田淵行雄さんの言葉「一山百楽」を紹介していた。83年の生涯で北アルプスの名峰・常念岳に206回登り、高山チョウや山岳写真などに偉大な功績を残した。一つの山でも百の楽しみが生まれるという。その境地に達するには並大抵ではないが、いい言葉だと思った。

 遊水地の自然の営みを見つめていると、様々な目的と愛情、思いを持って遊水地と長年に渡り真摯(しんし)に向き会う多くの人たちに出会った。日本屈指のアシ原も「百楽」の地なのだろう。

第60回目・絶滅危惧種トネハナヤスリ

 春本番の渡良瀬遊水地で15日、貴重な植物のトネハナヤスリがアシ原一面に見られて壮観だった。ヨシ焼きから3週間が過ぎて、高さ10数。に成長したヨシがタケノコのように芽生える。その間に群生するかれんな緑色の姿。このような場所は全国でも遊水地だけになったという。

 トネハナヤスリは草丈10〜20数。のシダの仲間。利根川流域の河川敷に生息するが、アシ原の減少で絶滅の危険性が極めて高い植物だ。環境省レッドデータブックの絶滅危惧氓a類に指定される。遊水地では珍しく広範囲に生育し、ヨシが成長すると光がさえぎられ消えていく。

 遊水地は絶滅危惧植物が49種も確認される。特に第2調節池は多い。エキサイゼリ、ハナムグラ、タチスミレ、マイヅルテンナンショウ、チョウジソウなどが初夏に咲く。全国的な湿地の開発から奇跡的に残った植物たちを絶滅させてはならない。

第61回目・足尾の植樹

 今年で11年を迎えた「足尾に緑を育てる会」(神山英昭代表・558人)主催の「春の植樹デー」が23日、栃木県日光市足尾町の大畑沢緑の砂防ゾーンで行われた。煙害などで荒涼となった標高900メートルの急傾斜地に、コナラ、クヌギ、ミツバツツジなど苗木約4500本を植えた。過去最高の約1300人が参加し、自宅の庭で育てた苗木を持参する人も目立った。

 同会は1996年5月、渡良瀬川流域の住民らが結成し今年で設立10周年になる。第1回目は約160人で約100本を植えた。「100万本の木を植えよう」を合い言葉に、年々活動の輪が広がり、10年間で2万6200本になる。昨年度は小学生を中心に114団体が体験植樹に訪れた。

 神山代表は「自分で苗木を植えることで、自然の大切さや公害の歴史を学んでほしい」と話す。11年前に植えた桜が満開で、褐色の山に鮮やかな色を見せていた。

第62回目・ニホンカモシカ親子

 渡良瀬川源流の足尾の山でこの春、ニホンカモシカ親子に偶然出会った。林道を歩いていると荒涼とした岩場の一角で、木の若葉や草を食べていた。2頭は離れていたが、一瞬寄り添ってくれ、仲むつまじい光景を見せてくれた。

 ニホンカモシカは偶蹄目ウシ科で日本固有種。人気の高い毛皮のため昭和初期に乱獲され、一時は絶滅の危機に。1955年、国の特別天然記念物に指定されて、個体数が増加した。いま足尾の山の生息密度は日本有数という。険しい岩山を好むためと緑化事業による緑の回復という環境が適したのだろう。

 カモシカウオッチングをするなら、足尾ダムから製錬所や古河橋から出川沿いにかけて、さらに「カモシカの見える駅」として知られる、わたらせ渓谷鉄道間藤駅の展望台などがいい。初夏は出産シーズンでもあり、親が昨年産んだ子と別れる季節でもあるので、親子の姿に遭遇しやすい。近年、ニホンジカの増加で上流の安蘇沢や久蔵沢の個体が備前楯山方面に移動しているという。

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