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【2006年5月 渡良瀬有情】

アシ原の朝

撮影・文 堀内洋助


第63回目・ヨシの滴

 五月に入り渡良瀬遊水地のアシはひざほどに伸び、黒い大地が広大な緑の湿地帯に変貌した。旧谷中村の屋敷林や川沿いのヤナギ林は鮮やかな青葉若葉に。フジが甘い香りを漂わせ、植物の花は咲き誇り、いまアシ原が一年で一番魅力的な季節だろう。

 早朝のアシは一面に滴でおおわれる。茂みに入るとズボンはびしょぬれ。朝露もあるのだろうが、アシをながめると先端から一滴一滴したたり落ち、葉にも水滴が広がっている。アシは水を吸い上げて浄化する作用があるという。朝日に輝く滴の玉は、まるで真珠のようにあでやかだ。

 大型連休の6日、遊水地で長年植物を研究する大和田真澄さん主催の植物観察会が旧谷中村跡で行われ、30数名が参加した。エキサイゼリ、トネハナヤスリ、チョウジソウ、ヌマアゼスゲ、ノウルシなど多くの絶滅危惧(きぐ)種に出会った。植物と語り合う時間は至福である。

第64回目・初夏の野鳥

 渡良瀬遊水地のアシ原に今月上旬、カッコウ、オオヨシキリ、コヨシキリ、ササゴイなど夏鳥が一気に渡来した。6日は旧谷中村跡地の屋敷林に美しいサンコウチョウの雄が見られた。渡り途中に立ち寄ったのだろう。10日には絶滅危惧(きぐ)種サンカノゴイが悠然と目の前を飛んだ。

 数百羽を超えるカワウの集団ねぐらが遊水地で確認される。十数年前は東京湾方面から冬季に飛来するだけだったが、今は一年中滞在する。ねぐら形成は餌場となる谷中湖の完成時期と重なる。新緑の木に群れる光景は印象深いが、盛夏を過ぎるとフンで木が真っ白になり異彩を放つ。

 遊水地は生物多様性に貢献する重要な湿地である。今月21日に植物、昆虫、野鳥の「渡良瀬遊水池自然観察会」が行われる。午前9時30分、栃木県藤岡町藤岡の遊水池会館駐車場集合。講師は長年遊水地の自然を研究する第一人者ら。参加費無料。

第65回目・ヨシ霧

 夏めく季節を迎え、渡良瀬遊水地の朝は早くなった。午前4時前にはほんのりと明るく、22日の日の出は4時32分。3時半過ぎには夏鳥のカッコウの鳴き声が聞こえ始める。一番最初に鳴く早起き鳥だ。まるで高原にいるような壮快な気分を感じる。

 「カッコー、カッコー」の声がヨシ原に響き渡るころ、晴れて風がないと川霧が漂い始める。早春や晩秋の季節に比べて雄大さに欠けるが、ヨシと樹林の緑に映える情景に魅了される。初夏は日の出のころに川霧が高く舞い上がり、自分が霧に包まれてしまうことが多い。視界を見失うが、何故か心地いい。

 数年前、NHKの自然番組の取材で遊水地を案内したとき、ディレクターが「川霧よりヨシ霧の名がいいね」と感激していた。ヨシが大地から吸い上げた水が露となり、大気中で冷やされ霧になるという。ヨシ霧は初夏の遊水地にふさわしい言葉だと思った。

第66回目・チガヤの穂

 いま渡良瀬遊水地の緑の草原にチガヤが群生する。白い花穂が薫風に揺れる光景は美しい。野鳥のセッカがチガヤの穂を巣材に利用するため、「ヒッヒッヒッ、チャッチャッ」とさえずりながら飛来する。その光景を撮影しようと白い花園に入った。

 セッカを待つ間に付近を見ると、アシの葉に長さ1、2。のチガヤの絹のような毛が広がっていた。セッカが穂を取る時に飛び散ったのか、風に吹かれたのだろうか。魅了される自然の営みだった。

 風は思いがけない光景を演出する。日本野鳥の会会員の一色安義さんから「ワシタカ類のアカアシチョウゲンボウが21日夕、遊水地に現れた」と連絡があった。同じ日に千葉県習志野市の谷津干潟にヤマショウビンが飛来。共に関東地方では珍鳥だ。同日、東京都港区の本社でアオバズクが保護された。気圧の谷が通過した20日の突風が西から珍客を運んだのだろう。

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