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【2006年9月 渡良瀬有情】

秋の色

撮影・文 堀内洋助


第74回目・ミズアオイ

 初秋の渡良瀬遊水地を代表する植物はミズアオイだ。ミズアオイ科の一年草として、水田や湿地、沼に生える。直径約3センチの青紫色の花を総状に多数つけて華麗だが、今では見る機会の少ない貴重な花になってしまった。

 昔は全国に自生し、農家の人には「水田雑草」と呼ばれ駆除の対象だった。やがて乾田化や除草剤の使用などで分布域が減少。現在、環境省のレッドデータブックの絶滅危ぐ類で、高い絶滅の危険性にある植物に指定される。

 遊水地の自然の営みを撮影して16年になるが、2年前に大群落が突然現れた光景は忘れられない。美しい花園を再び期待するが、今年も幻に終わりそうだ。植物研究家によると、土の中に眠る昔の種子がその時、土壌がかく乱されて現れたという。

 百年前、足尾鉱毒事件で滅亡した谷中村の田園地帯がここにあった。ミズアオイはその子孫なのだろうか。

第75回目・ツバメのねぐら入り

 渡良瀬遊水地の秋の夕暮れ、アシ原にねぐら入りするツバメの大群に出会った。日没から約10分後、薄暮の空に無数のツバメが突然現れた。見事な「ツバメの柱」は、何度も低空に急降下し、アシのすぐ上を素早く左右に飛び交う。翼が風を切る音と秋の虫の声が心地いい。ねぐら入りするまで約20分間、壮大な自然のドラマだった。

 遊水地の野鳥を観察する日本野鳥の会の内田孝男さんは「密度を推定して約十万羽」になるという。毎年8月下旬から約1ヶ月間見られ、今月中旬が最盛期。地元のツバメの群れに渡り途中のショウドウツバメの大群が合流する。

 夏鳥のツバメは繁殖を終えると、市街地からアシ原に幼鳥を連れて行き集団ねぐらを作る習性がある。その規模は数万羽にもなる。餌の小さな虫が豊富で水辺がある湿地は貴重なゆりかごなのだろう。遊水地で育ったツバメはまもなく南へ旅立っていく。

第76回目(最終回)・秋の朝焼け

 秋の夜明け、闇に覆われた渡良瀬遊水地の空が鮮やかに色を染め始めた。日が昇り、秋の雲が幻想的な朝焼けを描いた。いつも自然の営みが作る一瞬の美に心癒される。

 「谷中村廃村百年」の市民講座が栃木県弁護士会主催で、今月30日午後1〜5時に、宇都宮市駒生町のとちぎ健康の森・講堂で開催される。講師は渡良瀬川鉱毒根絶太田期成同盟会の板橋明治氏、谷中村の遺跡を守る会の針谷不二男氏、遊水地の自然保護に取り組む高松健比古氏と猿山弘子氏。私も四季の移ろいをスライド上映して講演。

 本紙連載「渡良瀬有情」の取材班として訪れて16年。日本の公害の原点である足尾鉱毒事件の歴史を背負って流れる渡良瀬川の自然再生のドラマを取材してきた。足尾の山が緑を回復し、遊水地がラムサール条約登録湿地になるのが願いだ。この新聞連載は終了となり、読者の方々から激励と共感をいただいたことに心から感謝の意を表したい。なお、ネット版は来年3月まで継続します。

番外編・昇る朝日

 地平線から昇る朝日を何度見てきたことだろうか。秋の雲が色を染める広大なアシ原の夜明けに魅了される=渡良瀬遊水地で

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