ネットカフェ難民、路上生活者…ワクチン接種から取り残される弱者たちを救え

2021年6月8日 06時00分
 高齢者への新型コロナウイルスワクチンの接種が進む中、路上やネットカフェで暮らす人たちの接種をどうするかが課題になっている。住民登録と違う場所で暮らしていたり、住民票自体が消除されていたりして、自治体からの接種券が届かないためだ。ワクチン接種から弱者が取り残される恐れが強まっており、実態把握に乗り出したNPO法人もある。 (中村真暁)

食品の無料配布の会場を訪れた男性(左)にアンケートをとる「世界の医療団」のボランティア=東京都豊島区で(中村真暁撮影)

◆住所不定の悲劇

 「接種券が手に入らない」。5月下旬、東京都新宿区で、支援団体が実施した食品の無料配布の会場を訪れた男性(83)は、あきらめ顔でこぼした。
 70代の男性も「昨年、特別定額給付金の10万円も住所不定で支給されなかったからワクチンも無理。できるなら、だれだって打ちたいですよ」と漏らす。2人とも路上生活者だ。

◆自治体は住民票頼り

 接種券は自治体が住民票の住所に発送するため、住まいがない人は手にしにくい。厚生労働省は4月末、各自治体に対し、路上生活者らに接種を周知し、窓口に来た場合、接種券を発行することなどを求める通知を出した。だが、自治体側の対応は進んでいない。
 路上生活者らが多い新宿区の吉住健一区長は2日の定例会見で「住民票が消除された方もいる中で、(接種の進め方を)研究しなければならない」と話した。
 豊島区は、住まいのない人が接種券をどのように受け取れるか、支援団体と協議している。担当者は「なるべく早く、実態に合った形で進めたい」と話す。

◆生活困窮者にアンケート

 医療支援に取り組む認定NPO法人「世界の医療団」は5月下旬、豊島区内の公園で生活困窮者約300人にアンケートを実施。「接種の開始を知っているか」「接種券を受け取れるか」などを聞いた。後日、結果を区に提供し、役立ててもらう。
 同法人の武石晶子さんは「スマホもテレビも持たないと、無料で接種できることや、2回打つといった基本的な情報にもたどり着けない。社会から排除されてきた経験から、公的支援に頼ろうとすら思えない人もいる」と指摘する。

◆「諦めている人たちの声を行政に」

 厚労省が2016年に行った路上生活者らの生活実態調査では、65歳以上が42.8%を占めた。70歳以上に絞ると19.7%だった。
 路上生活を送る高齢者の中には、新型コロナに感染すると重症化しやすい基礎疾患を抱えた人が多いとみられるが、自治体の対応が住民登録ベースのため、接種が行き届かない。今後、接種対象が拡大すれば、比較的若い年代も多い「ネットカフェ難民」にも問題が広がりかねない。
 武石さんは「ワクチン接種から取り残されれば、最後に感染が集中する可能性もある。全員の命を守るため、諦めている人たちの声を拾い上げ、行政に届けたい」と話している。
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◆国は積極的に対応を

 生活困窮者の支援活動に携わる木村正人・東洋大教授(社会学)の話 自治体の多くが住まいがない人の状況を普段から把握できておらず、ワクチン情報の周知活動も不十分になっている。いわゆる「アベノマスク」や特別定額給付金だけでなく、全ての人が受けられる支援からいまだに漏れている人たちがいることに愕然がくぜんとする。国や自治体はこうした問題を直視し、積極的に対応すべきだ。

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