無声映画 新時代の幕開け マツダ映画社、70年目の誓い カツベンを伝統芸能に

2021年9月8日 07時03分

無声映画の魅力を語るマツダ映画社の松戸社長。後ろの写真は父で弁士の松田春翠=足立区で

 音のない映像の脇で、弁士が情景やセリフを語る無声映画に今、デジタル世代の注目が静かに集まる。消えかかったあかりの再燃は、この会社の功績抜きには語れない。国内唯一の無声映画専門会社「マツダ映画社」(足立区)。設立から70年目の節目を迎えた。
 「我らがチャーリー君もお疲れ気味。暴力はやめましょう、それじゃ失礼」「このやろー」。8月末、JR日暮里駅(荒川区)近くのホールで開かれた、無声映画の名作「チャップリンの移民」(1917年)の鑑賞会。新型コロナ対策で置かれたついたて越しに、活動弁士が観客の前で軽妙な話術を披露した。

荒川区で開かれた無声映画の鑑賞会。弁士の巧みな話術が物語への想像力を誘う

 観客の男子大学生(20)は「中学の時、地元のイベントで無声映画を知った。目の前で弁士が話すライブ感がいい」。女性ウェブデザイナー(48)は「昔の映画だけど、弁士によって印象が新しくも古くもなるのが魅力」と話していた。
 鑑賞会を開いた「マツダ映画社」は、人気弁士の松田春翠(しゅんすい)(1925〜87年)が52年に設立した会社。戦争などで散逸したフィルムを探し集め、上映した。昭和になってからの音声の入った「トーキー」の登場で無声映画は時代遅れとなっていた。当時は映画フィルムの保存価値が叫ばれることもなかった。今では見ることができなくなった無声映画は多い。
 後を継いだ息子の松戸誠社長(61)によると、59年から月1回のペースで開いてきた鑑賞会は、今回で757回目。現在フィルム約6000巻、約1000作品を所蔵し、中には大正のチャンバラ映画で評価の高い阪東妻三郎主演の「雄呂血(おろち)」、小津安二郎監督の初期作品など貴重映像もある。
 松戸さんは「収集を裕福なコレクターの趣味としてではなく、ビジネスとして成立させた。ファンに作品を見てもらいながらの収集と保存を続けたのが功績だろう」と振り返る。
 国は2018年に「国立映画アーカイブ」を設立。映画関連資料の収集と保存を本格化させた。ただ、松戸さんはこれだけでは不十分だと考える。「無声映画は『活弁』と呼ばれる弁士の文化とセットで残さなければならない」

終戦直後の上映会ポスター

 映画草創期の活動弁士が主人公の周防正行監督「カツベン!」(2019年)のヒットで広く知られるようになった弁士を志す若者も増えている。劇団員や声優、元アナウンサー、落語を習うサラリーマン。養成講座に集まった多彩な顔ぶれの中からは、腕を上げてイベントで弁士を務めるようになった人も現れている。後継者に、と期待している。
 今年6月は新宿駅東口の「新宿武蔵野館」で「第1回カツベン映画祭」を開いた。マツダ映画社の在籍で現代の職業弁士の第一人者とされる沢登翠(さわとみどり)さんらが出演、昨年に開館100周年を迎え、徳川夢声ら芸能史に名を残す大物弁士が登壇した歴史を刻む老舗映画館から「文化継承」のメッセージを発信した。松戸さんは力を込める。「落語の寄席のようにいつも無声映画が見られる場所をつくりたい」
 目指すは、100年先も人々を楽しませている日本の伝統芸能とすることだ。
 文・宮本隆康/写真・坂本亜由理、松崎浩一
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