保育士・介護職の賃上げ「労働者に確実に行き渡る仕組みを」 岸田政権問われる本気度

2021年11月15日 21時08分

◆委託費の使途制限なく賃金に反映されず

 岸田文雄首相は、保育士や介護職、看護師らの賃金アップを分配戦略の柱とし、来年2月にも賃上げを行う方針だ。保育士の処遇改善は安倍政権も取り組んだが、保育士の賃金は全産業平均に比べていまだ開きは大きい。人件費の原資となる私立の認可保育園の運営委託費に使途の制限はなく、賃金に十分充てられていない例も多いためだ。保育現場からは「労働者に確実に行き渡る仕組みがなければ」と懸念の声が上がる。
 保育園の委託費は国の基準によって人件費、事業費、管理費を積算して決められ、自治体を通じて事業所に支払われる。政府は保育士の賃金アップを目的に2013年以降、委託費を幾度も加算。技能や経験に応じた加算分を含めれば、最大月額8万円程度の上乗せを可能にしたと説明する。だが、現場の賃金に十分反映されたとは言いがたい。

◆委託費のルール見直しを

 背景には、委託費の使途を制限しない『弾力運用』を園側に認めたことがある。以前は使途を制限していたが、保育園事業への株式会社参入などで規制を緩和。事業者は委託費のうちの人件費分をすべて賃金に充てる必要がなくなった。
 政府は委託費のうち人件費に回る分を8割と想定するが、介護・保育ユニオン(東京)によれば5割を切る事業者もいるという。また19年の会計検査院の報告では、加算された委託費で収入が増えたにもかかわらず、16~17年度でのべ660の保育所が賃金改善に充てていなかったことが明らかになっている。
 「今の仕組みではすべての労働者に配分されず、全体の底上げにならない」。全国福祉保育労働組合(東京)の澤村直書記長は委託費に関する現行ルールの見直しを求め、岸田政権にくぎを刺す。
 国が定める保育士の配置基準も処遇改善の足かせになり続けている。「4・5歳児30人に保育士1人」「1歳児6人に保育士1人」といった基準では現場の仕事はうまく回らない。人員増をしたとしても、配置基準の職員分しか国は負担してくれない。介護・保育ユニオンの三浦かおり共同代表は「人員を手厚くしている園ほど賃金が上がらない」と指摘する。
 一方、事業者によっては、園舎の修繕費用や新型コロナウイルス感染症対策などのため、増加した委託費を人件費に十分に回せない問題を抱える。澤村氏は「そもそも委託費の規模が小さい。(委託費の加算根拠となる)賃金引き上げ幅が仮に月額で1万円未満で今回限りだとしたら岸田さんの本気度を疑う」と話す。(坂田奈央)

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