過酷の中でも希望、クルド人をカメラで後押し 川口集住の若者を写真家活写
2020年9月25日 10時36分
国家を持たない世界最大の民族と呼ばれるクルド人は、日本国内で暮らす多くがトルコでの弾圧を逃れてきたものの、難民認定されず、強制送還の不安にさらされている。写真家の斉藤幸子さん(35)=東京都大田区=は、埼玉県川口市を中心に集住するクルド人にレンズを向ける。伝えたいのは、異国の地で毎日を懸命に生きる姿だ。(近藤統義)
◆「本当の切実さが見たい」
モデルやタレントの撮影を仕事にする斉藤さんが難民問題を意識するようになったのは、中東やアフリカから大量の難民が欧州に殺到した5年前から。祖父が旧満州(中国東北部)移民だったこともあり「もともと国境に対する垣根がなかった。内戦などで出国せざるを得なかった難民が、なぜ痛い目を見ないといけないのか疑問だった」。
調べていくと、トルコ政府の迫害に苦しんできたクルド人が川口市周辺でコミュニティーをつくり、約1500人が生活していると知った。2年前、撮影をしたいと、地域の公園などで毎春開かれるクルド民族の新年祭「ネブロス」に初めて足を運んだ。
「とても陽気で、優しく接してくれた。でも、キラキラした祭りで本当の切実さは見えない。もっと知りたいと思った」。それ以来、クルド人の家庭を繰り返し訪ね、この2年間で出会ったのは100人以上。徐々に打ち解けながら、日常をカメラに収めてきた。
◆「希望があるからこそ、写真が撮れる」
主な被写体は、幼くして来日したり日本で生まれたりした若者たちだ。ビザが取り消され強制退去を命じられた短大生や、ビザはあっても就労が認められない高校生。父親が入管施設に収容された少年もいた。
「『在日クルド2世』とひとくくりにできないほど、複雑なグラデーションがある。たわいのない会話から、多くの子が自分は不安定な境遇に置かれ、周りとは違うと理解しているのが伝わってきた」。過酷な経験の積み重ねからか、若者たちからは年齢よりも大人びた印象を受けることが多いという。
女優や客室乗務員、ヘアメークアーティスト―。それでも夢を尋ねると、無邪気な答えが返ってくる。ある少女は「たとえ役に立たなくても、勉強すれば良い人間になれるから」と笑い、別の少女は「貧しい国の子どもたちを笑顔にしたい」と語った。
そんな前向きな姿が、撮影を続ける大きな原動力だ。「将来を選択する自由がなくても、自らの無限の可能性をまだ信じている。そこに希望があるからこそ、写真が撮れる。撮ることで目標をクリアしようという意志を後押しできたら」。被写体としての魅力を伝えるとともに、クルド人を取り巻く状況が変わるきっかけになればと願う。
都内で今夏開かれた写真展で若者たちのポートレートを初披露し、それぞれが夢をつづった手紙も添えた。「クルド人は私たちと地続きで確かに存在している。困難に直面しても力強く生き抜く人生に、ライフワークとして向き合っていきたい」と斉藤さん。シャッターを切るたび、その思いは増している。
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