資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す 松尾匡(ただす)、井上智洋、高橋真矢著 

2021年4月25日 07時00分

◆経済を考え直すため格闘
[評]矢部(やぶ)史郎(ライター)

 全体に巧みな文章とは言えず、生硬でもある。論点は未整理で、あちらへ行ったり、こちらへ行ったり、読み手にとってはくたびれる本だと思う。そしてくたびれる思いをしながらも、この本には読むべき価値がある。
 本書は、なんらかの定説に従って政治経済の論点をスマートに整理したものではない。その反対である。経済と政治について定説となっているものを、もう一度ほぐして、本当にそうなのだろうかと検討し直していく作業だ。そもそも貨幣とは何か。金融とは何か。財政とは何か。生産性とは何か。経済と政治について自明視されているものについて、これまで言われてきたことが本当は違うのではないかと、考え直しているのである。
 本書に書かれているのは、資本主義を脱却するための良質な政策提言ではないし、これ一つで万事解決という処方箋でもない。ここにあるのは現代資本主義の行き詰まりを考えるための、いくつもの問いである。手っ取り早い解答を求める人にとっては、物足りない読後感を抱く内容かもしれない。この本に答えはなく、いくつもの問いがゴロンと放り出され、乱反射しているからである。不十分な記述にいらだったり、拾い出す要素が欠けていると感じたり、読者はさまざまな不満を抱くはずだ。
 本書は、二人の経済学者と一人の「不安定ワーカー」の合作である。この三人の著者たちの姿に、私は共感をおぼえる。半世紀にわたって支配的な地位に君臨した「近代経済学」のセオリーを、批判的に再検討するという試みは、スマートに格好良くこなせるものではない。革靴を脱いで、ゴム長靴に履き替えて、泥と汗にまみれながら格闘する以外に方法はない。
 こうした泥臭い作業の中から、経済学の学術的成果が生み出されるのかもしれない。見せかけの教説ではない、本当に価値のある学術的発見が、新自由主義への批判的検討から生まれてくるはずだ。
<松尾> 立命館大教授。著書『左翼の逆襲』など。
<井上> 駒澤大准教授。著書『MMT』など。
<高橋> 高校中退後、大学の夜間学部卒業。
(光文社新書・1012円)

◆もう1冊

デヴィッド・グレーバー著『負債論』(以文社)。酒井隆史監訳。

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