メディア支配 その歴史と構造 松田浩著

2021年4月25日 07時00分

◆「闘うジャーナリスト」の遺著
[評]隈元信一(ジャーナリスト)

 日本でテレビ放送が始まった一九五三年に日経新聞記者になり、放送界の取材・研究を長く続けた「闘うジャーナリスト」の遺著である。「死ぬ前にこれだけは書き残す」という気迫が尋常ではない。
 突き動かしたのは、現状への怒りだろう。権力を監視するはずのテレビや新聞が、逆に権力に監視され、政権のいいようにされている。「この日本の現実を国民一人ひとりが見極め」「なぜこういう事態になったかを歴史に学ぶこと」が急務だと促す。
 豊かな取材体験や研究の蓄積をもとにリアルに描き出すメディアの戦後史から、「権力の操作のメカニズムに組み込まれていく」過程がくっきりと浮き彫りになる。
 「気迫」は少なくとも三点でにじみだす。
 (1)「諸悪の根源」への警鐘
 日本は敗戦直後、政府から独立した電波監理委員会が放送行政を担った時期がある。それが一九五二年、吉田茂内閣によって廃止され、郵政省(現総務省)が巨大な許認可権を握った。以来、放送への政治介入が日常化していく。
 (2)新聞界への批判
 著者は入社一年後、社内で自主労組再建運動の先頭に立ったという。自社を含む新聞批判に容赦がない。とりわけ五大全国紙とテレビ局の系列化。テレビ免許という「特別な“便宜”」によって体制内に取り込もうとする政府・自民党との「共犯関係」にはまり、「権力監視機能をいちじるしく低下」させた、と断じる。
 (3)実名主義の徹底
 「専権と恣意(しい)」で放送行政をゆがめる大臣、政府に批判的な記事に神経質な社長や編集局長ら、上に行くほど必ず実名で書く。責任ある立場の者に匿名は許さない。そんな覚悟が伝わってくる。
 本書は、処方箋も具体的に示す。何より、放送行政を世界の潮流である独立行政委員会に戻すこと。NHK会長公選制なども検討に値しよう。
 総務省幹部への接待、外資規制違反をめぐる総務省の対応、NHKに強まり続ける政治圧力、人事圧力……。現状を見るにつけ、著者の「遺言」の一つひとつが胸を打つ。
1929〜2020年。著書『ドキュメント放送戦後史I・II』『NHK』など。
(新日本出版社・2090円)

◆もう1冊

戸崎賢二著『魂に蒔(ま)かれた種子は』(あけび書房)。元NHKディレクターの遺著。

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