人間が汚した地・チェルノブイリにただ一人残った老人 「なぜ?」の問いに帰ってきた言葉の衝撃

2021年4月24日 17時00分
 「人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか」。旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の強制移住地区に一人残り住む牛飼いの老人の言葉を追い掛けて、写真家・映画監督の本橋成一さん(81)は約30年、現地に通い続けている。これまで写真集やドキュメンタリー映画をつくり、今年はこの言葉をタイトルにした40分の記録映像作品を監督した。事故は26日で発生から35年になる。 (鈴木久美子)

種芋を植えるナボーキンさん=本橋成一さん撮影

◆青く美しい空の下は…

 放射能に汚染されたベラルーシのチェチェルスク地区を初めて訪ねたのは、1991年の春。カメラを手に歩いていると、澄んだ青空の下、家族総出でジャガイモの植え付けがされていた。
 「汚染地区なのに、どうしてこんな美しいのか」
 本橋さんは住民の暮らしを撮った。監督した映画「アレクセイと泉」(2002年)は、大地に根差した自給自足の日々から、ふるさとに住む幸せが事故によって奪われる深い悲しみを描き、ベルリン国際映画祭で国際シネクラブ賞を受賞した。

チェルノブイリ原発事故の汚染地区に通い続ける本橋成一さん

◆人間の知恵が自然を破壊、そして彼を殺したのも…

 「人間の汚した土地…」は、95年に出会った元教師の牛飼いアルカジイ・ナボーキンさん=当時(83)=の言葉だ。「なぜ移住しないのか?」との問い掛けに返ってきたその一言に、本橋さんはショックを受けた。「自分は思い上がっていた。恥ずかしかった」
 ナボーキンさんは牛27頭の世話をし、ジャガイモを育てていた。古びたアコーディオンを演奏し、その音が人生を表現しているようだと映画に撮ろうと考えたが、ナボーキンさんは牛泥棒に殺されてしまった。
 「みんな生きものは自然の中で生きているのに、人間だけが知恵をつけて地球の生態系のバランスを崩している。放射能はその最たるもの。コロナもそうでしょう。人間の暮らしを変えなくてはいけない。そのことにナボーキンさんはちゃんと気が付いていた」

アコーディオンを奏でるナボーキンさん=本橋成一さん撮影

◆通い続けた30年の思い、40分の記録映像作品に

 今回の記録映像作品は、一昨年の訪問の様子をまとめた。これまでの映画で主人公になった少女や青年は都市に移住しており、久々に再会して近況を伝えている。ナボーキンさんの教え子だった男性に初めて会い、墓参りもできた。
 時は流れる。どこへ行けっていうんだい―。問い掛けは深まっていく。
 30日まで東京都中野区の映画館ポレポレ東中野=電03(3371)0088=で上映予定だが、緊急事態宣言期間中は要確認。

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