やまゆり園での聖火採取に批判 遺族「大会盛り上げへ利用」 背景に当事者不在の障害者施策

2021年4月26日 06時00分
 2016年に入所者ら45人が殺傷された相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」での東京パラリンピックの聖火採取に、批判が広がっている。市は決定前に事件の遺族や入所者らに相談していなかったことを謝罪し、場所変更を含めて再検討している。専門家は「当事者不在の障害者施策の表れ」と指摘する。(曽田晋太郎)

市の担当者(右)に津久井やまゆり園での採火中止を求める被害者家族の尾野剛志さん=13日、相模原市南区で

◆「遺族の気持ちをないがしろ」

 「家族が犠牲になった場所で採火が行われるのは違和感があります。遺族の気持ちがないがしろにされるようで悲しい」。昨年、被害者を匿名で行われた植松聖死刑囚の裁判員裁判で名前のみ明かした美帆さん=当時(19)=の遺族は、市や神奈川県への要請書で、園での採火中止を求めた。
 姉=当時(60)=を殺害された男性(62)は取材に「スポーツの祭典と痛ましい事件の現場を、障害者というだけで結び付けるのは認められない」と不快感を吐露。重傷を負った尾野一矢さん(48)の父剛志たかしさん(77)は「大会を盛り上げるために園を利用しているように思えて許せない」と話す。
 反対の声は園関係者にとどまらず、市によると、これまで市には電話やメールで障害当事者や家族らから意見が100件以上寄せられた。多くは園での採火中止や再考を求める内容だった。

◆相模原市長は陳謝

 市は、共生社会の実現を目指すパラリンピックの理念に沿うと考え、事件を風化させない誓いも込めて実施を決定。園を管理する県と、運営法人の「かながわ共同会」から了承を得た。オンラインで反対署名を募っている脳性まひの実方裕二さん(61)=東京都世田谷区=は「園関係者に事後報告で押し通そうとする姿勢自体、共生社会を語る資格はない」とする。

遺族らに事前に相談しなかった点を陳謝した相模原市の本村賢太郎市長=20日、相模原市役所で

 市は当初、具体的な採火方法や参加者を決める段階で「遺族らに相談し理解してもらおうと考えていた」(担当者)という。しかし批判の高まりを受け、本村賢太郎市長が20日の定例記者会見で「本来ならば遺族や家族、利用者(入所者)に一番寄り添わなければいけなかった。配慮が足りず、反省している」と陳謝に追い込まれた。
 市幹部は「ある程度の批判は想定していたが、ここまで世間を騒がせる事態になるとは思っていなかった」と明かした。
 一方、入所者の家族会長の大月和真さん(71)は個人の考えと断った上で「悲惨な事件を2度と起こさず、共生社会を目指すというメッセージや再建した園での新しい生活を発信する機会になる」と話すなど、理解を示す声もある。

◆識者は「同じ目線で対話を」

 問題の本質はどこにあるのか。大阪府立大大学院の三田優子准教授(障害者福祉)は「日本ではこれまで、弱者を守るとの趣旨で一部の知的障害者らに十分な判断能力がないとレッテルを貼り、教育や生活の場などで障害当事者が意思表明する機会や自分で選ぶ権利を奪ってきたことが背景にある」と指摘する。

建て替え工事が進む津久井やまゆり園。新施設への入所は8月に始まる予定だ=21日、相模原市緑区で、本社ヘリ「おおづる」から

 その上で「当事者側の意見や意思を無視して一方的に『共生』や風化防止を掲げても意味がない。当事者不在で決めてしまった経過を検証し、当事者に真剣に寄り添い、同じ目線で対話して障害者にまつわることを決める機会をつくるべきだ」と話している。

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