<社説>ワクチン確保 国産開発へ教訓生かせ

2021年4月27日 08時29分
 高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種が始まった。だが、供給量は限られており欧米と比べ接種作業の遅れが目立つ。感染症対策に不可欠なワクチンの確保策を根本から見直す必要がある。
 二〇〇九年に新型インフルエンザが流行した際、海外産ワクチンにも頼り混乱した。当時の政府対応を検証した厚生労働省の有識者会議がまとめた報告書は、その反省から「国家の安全保障という観点からも、ワクチン生産体制を強化すべきである」と国産体制の必要性を指摘する。
 だが、国産ワクチンの開発は遅れ、海外の製薬企業に頼らざるを得ない状況が今も続く。政府は報告書の指摘を重視してこなかったと言わざるを得ない。政府は四月、国産ワクチン開発や生産体制の強化策の検討にようやく入ったが、後手との批判は免れない。
 ワクチンを海外に頼る限り、確保の見通しはなかなか立たない。製薬企業の事情だけでなく、欧州からの輸出を管理する欧州連合(EU)の意向にも左右されている。綱渡りの対応が接種を待つ国民の不安を大きくしている。
 日本はかつて国が主導して、はしかや風疹などのワクチン開発で世界をリードしていた。ところが種痘などの集団接種に伴う副反応で訴訟が相次ぎ、国民のワクチン不信が広がって開発が停滞した。
 製薬企業にとって開発は時間がかかり感染症に対するワクチンの需要見通しも立ちにくい。国内では中小の製薬企業が需要のある既存のワクチンを作る状況が続き、海外の製薬企業と対抗できる競争力を持った企業が育っていない。
 日本では感染症対策は公衆衛生問題との認識だが、欧米ではテロ同様に安全保障問題と認識されており、平時から製薬企業のワクチン開発を支援してきた。
 日本政府はそうした危機意識が低く研究開発費の支援や人材育成を怠ってきたのではないか。政府は資金支援だけでなく、独自技術を持つ新興企業の育成や製薬企業間の連携など戦略を示すべきだ。社会を守るためにワクチンの重要性を説明する責任もある。
 検証報告書は接種作業についても、あらかじめ接種の予約や接種場所、接種方法など現場の実施体制の計画策定も求めている。
 だが、政府の対応は場当たり的で接種を実施する自治体の混乱を招いている。準備不足は否めない。迅速な接種ができてこそワクチンが生きる。生かすべき教訓の軽視は許されない。

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