「抱き締めて見送りたかった…」コロナに裂かれた夫婦の絆 遺体にも会えず実感なく迎える一周忌

2021年4月30日 06時00分

「写真を見るとどうしても寂しくなる」と、夫婦で撮った写真を見つめる女性(一部を加工しています)

 新型コロナウイルスで死亡する患者の多くは、家族らにみとってもらえないまま命を落としている。千葉県内の高齢者施設に入居する80代女性は昨年春、夫婦で感染して夫を亡くし、遺体との対面もかなわなかった。間もなく一周忌を迎えるが、今でも死を実感できず、「長年連れ添った夫婦だから、抱き締めてから見送りたかった」と悲しみを募らせる。(太田理英子)

◆高齢者施設内で2人とも感染

 2人で施設内で暮らしていた昨年春、夫は38度近い高熱を出し、PCR検査で新型コロナの陽性と分かった。「施設の外ではやってると知っていたけど、まさか中で感染するなんて」。後で知ったが、当時、施設内では既に複数の入居者の間で感染が広がり、クラスター(感染者集団)が発生していた。夫に入院で必要な荷物を渡し、慌ただしく見送ったのが最後の別れとなった。
 濃厚接触者として検査したところ、女性も数日後に感染が判明。女性は無症状だったが、夫と別の病院に入院中、夫の死を知った。子どもたちも夫をみとることや火葬への立ち会いが認められなかった。「こんなに寂しい別れはない」。退院後、女性は夫の骨つぼを受け取ったが、60年近く連れ添った夫の遺骨を見る気にはなれなかった。

◆「なんで連れていってくれなかったの」

 夫は口数が少なく穏やかで、歌謡曲やシャンソンなど、どんなジャンルの歌も得意だった。1人で施設に戻った女性は、CDに録音した夫の柔らかい歌声を聴くと夫がいないことを痛感した。笑顔の遺影には、毎日のように話し掛ける。「なんで連れていってくれなかったの」。最近は、よく夢に夫が現れるようになった。
 今思えば、認知症が進んでいた夫は、マスクを嫌がることが多かった。高齢者施設では入居者の重症化や集団感染のリスクが高いとされるが、自力での生活が困難だったり家族の都合があったりと、施設だけが頼りだという人は多い。

◆孫やひ孫に会う喜びも我慢の日々

 高齢者施設でのクラスターは各地で発生している。女性の施設では、施設内での感染者や、いつの間にか姿を消した人について、入居者に詳細な事情は知らされていない。外部との接触が減って部屋にこもりがちになり、認知症が一気に進行した人も増えたという。
 女性は「こういうところではなかなか(感染から)逃れられない。孫やひ孫の顔を見たらほっとするけど、今はお互いのために会うのを我慢するしかない」。自分に言い聞かせるように、つぶやいた。

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