富岳 世界4冠スパコンが日本を救う 日経クロステック編集

2021年5月2日 07時00分

◆利便性重視へ舵 「1位」に
[評]近藤雄生(ライター)

 「富岳」とは、現状世界最速の国産スーパーコンピューターだ。スパコンの性能を競う主要な四つのランキングで、最近の二期(二〇二〇年六月と十一月)連続で圧倒的な一位を獲得している。昨年、コロナ禍の拡大に伴い、マスクの種別の効果の違いを示すCG動画が広く報道され、不織布マスクの優位性が周知されたが、そうした解析を可能にしたコンピューターとして知る人も多いだろう。
 本書は、富岳がいかにして誕生したかを紐解(ひもと)くとともに、その特長を詳細に紹介する。と同時に、富岳の先代にあたる「京(けい)」が開発された時代から現在までの世界のスパコン開発競争、そして今後のスパコンの行方までを、主に技術面から書いている。
 まだ京が開発段階にあった〇九年、事業仕分けにおいて蓮舫議員が「二位じゃだめなんでしょうか」と言ったのは有名だが、その発言が、富岳の設計思想にも小さからぬ影響を与えたことはおそらくあまり知られていない。蓮舫氏の発言は様々(さまざま)な議論を呼びながらも、それを契機に日本のスパコン開発の方針は、「世界最速」追求一辺倒から使う側の利便性を重視する方向へと舵(かじ)を切る。その方針を維持した結果、富岳が、京以上に幅広い指標で世界一を獲得するスパコンとなったことは、技術開発のあり方を考える上で大いに参考にされていい。
 加えて、スパコン開発における日本のベンチャー企業の躍進についても紹介し、ある二社の明暗が語られる。また、実現すれば既存のスパコンとは次元の異なる高速計算が可能とされる量子コンピューターについても、一人の日本人研究者の考案を起点としたここ十年ほどの展開と、その未来が描かれる。
 気候変動や感染症への対応、人工知能の発展など、高性能なスパコンの必要性が今後ますます高まっていくだろう中、その発展がどう進むのかが、読むほどに気にかかる。
 富岳も、完成直後にコロナ禍によってその力の一端が示されたが、真価が問われるのはこれからだろう。今後の行方を追いたくなった。
(日経BP・1980円)
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◆もう1冊

川添愛著『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(東京書籍)

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