[はい、ポーズ] 愛知県瀬戸市 吉田さをり(60)

2021年5月2日 08時14分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[あの人は…?] 岐阜市・主婦・57歳 飯田英子

 朝四時半に目覚まし時計が鳴り、わたしの一日が始まる。
 冬の朝はまだまだ暗い。真っ暗だ。
 こんな早朝、暗闇の中を、わが家の前を歩いて行く人がいる。
 毎日毎日、決まった時間。だいたい五時半くらいだ。
 「おはようございます」
 お互い、短い挨拶(あいさつ)を交わす。
 「行ってらっしゃい」
 その後ろ姿を見送り、ポストから新聞を取って家に入る。これが日課だ。
 近頃は、冬から春へ、だいぶ日の出が早くなった。冬の間は暗くて見えなかったわが家の前に広がる田畑も遠くまで見渡せ、気持ちがいい。
 のどかな朝だ。
 すると、一匹のタヌキが、こちらをじっと見て、何か言いたげにゆっくりとわたしの前を通りすぎていった。
 その時、時計は五時半をさしていた。

<評> 日に日に夜明けが早まる季節です。思わず寝ぼけ眼をこすりたくなる愉快な一篇(ぺん)。朝ぼらけの時刻、通りすぎる人影を見かけると、(尻尾がついているのでは?)と確かめたくなってしまいます。

[空のカンバス] 名古屋市南区・会社員・59歳 高見直宏

 新婚の頃、妻に内緒でリネンのカンバスを買った。
 何を描こうか迷った末、何も描かずに押し入れに隠した。
 それからすぐに娘が生まれ、あっという間に成長。やがて嫁いで孫が生まれ、わが家を改築することになり、押し入れを整理したら、そのカンバスが出てきた。
 今度こそ何か描こうと決心し、公園に出かけた。
 快晴を見上げていたら空が描きたくなって、筆で油性の青をすくい、麻色のカンバスにのせた。
 そしたら雲も描きたくなった。
 入道雲、いわし雲、雷雲、ついでに虹も描いてみた。晴れと曇りと雷雨と虹が入り交じる世界にたった一つしかない僕の空ができた。
 この不思議な心象風景を、僕は妻に見せたくなった。
 無性に共有したくなった。

<評> 真っさらな大空に、さまざまな雲が湧き、流れ、時に雷光が閃(ひらめ)いたり、雨風が吹き荒れたり…そんな空模様を七色の架け橋でひとつにまとめれば、ご夫婦二人だけの年月を回顧する作品の完成です。

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