木村草太さんおすすめ 憲法を考える4冊 同性婚 障害者差別…「権利の実現」 知る重み

2021年5月3日 07時12分
 きょう5月3日は憲法記念日。あらためて憲法について考えてみませんか。東京都立大教授の木村草太さん(40)におすすめの本を紹介してもらいました。
 憲法事件の背後には、「全ての人が尊重される社会」を求める人々の思いや歴史、学問研究などの蓄積がある。読書を通じて、その重みを実感してほしい。

<1>慶応義塾大学出版会・2200円

 まずは、同性婚について。今年三月十七日、札幌地裁が、民法・戸籍法が異性婚と同性婚を不平等に扱うことを違憲とし、大きな注目を浴びた。同性愛差別の歴史は長い。<1>小泉明子『同性婚論争』は、法社会学者の視点から日米の同性婚に関する事件・議論を分析している。アメリカでは、一九七八年にゲイをカミングアウトしていた市議会議員へのヘイト殺人事件が起きた。悲惨な事件が起こってもなお、連邦最高裁は長らく同性愛を罰するソドミー法を合憲としてきた。こうした話を聞くと暗澹(あんたん)たる気持ちになるが、他方で、アメリカは自由と平等を国是とする国でもあり、権利獲得に向けた活動も力強い。二〇〇三年、連邦最高裁は判例変更しソドミー法違憲判決を出し、一五年には同性婚を認めないのは違憲だとの歴史的判決を出した。
 本書のエンディングは、日本の同性婚訴訟の提起だ。これを読んでから札幌地裁判決に目を通すと、その歴史的意義をよく理解できるだろう。
 次に障害者差別について。二〇一一年に障害者基本法が改正されると、一三年には障害者差別解消法の制定とともに、障害者雇用促進法が改正された。特に注目されるのが「合理的配慮の義務」(差別解消法五条)だ。配慮が義務付けられるのはなぜなのか。<2>杉山有沙『障害差別禁止の法理』は、憲法学・労働法学の専門書ながら、丁寧で啓発的な分析を行っている。

<2>成文堂・6160円

 障害がある者にとって、日常生活・社会生活を営む上での障壁(社会的障壁)は多い。社会の多数派にとっては、エレベーターのない階段を見たところで「そんなものだ」で済む程度の不便さにすぎない。このため、社会的障壁の除去は、「権利の実現」ではなく、恩恵として「施し」・「やってあげるもの」と理解されがちだ。
 しかし、階段は、山や川のように自然にできるものではなく、私たちが設計し建築したものだ。階段は「平等」で、障害者のためのエレベーター設置は「特別な施し」だとする認識が、すでに傾いた秤(はかり)なのだ。合理的配慮の法理は「問題となる社会構造自体に障害者を排除するような構造がはじめから組み込まれていないか再検討する必要性」を顕在化しただけで、決して特権付与のための法理ではない。杉山はこの点を強調する。

<3>勁草書房・3300円

 最後に、憲法全般について。二〇一四〜一五年の安保法制の立法過程は、憲法を根幹から理解しなおす機会となった。<3>樋口陽一『憲法 第四版』は、学界の伝説たる著者の体系書の最新改訂版だ。安保法制を含め、憲法学の全領域で鋭利な問題提起と濃密な論証が示される。「国民主権」や「個人の尊重」といった言葉は、パッと見ると、なんとなく分かった気になるかもしれない。しかし、改めて説明を求められたなら、何も理解できてなかったことを自覚し、途方に暮れることも多いだろう。本書は、そんな人に真っ先に手に取ってほしい一冊だ。

<4>河出書房新社・1650円

<4>河出書房新社・1650円

 ところで、五月三日の憲法記念日の翌々日の五日はこどもの日だ。子どもだって、憲法を楽しく学びたいはず。子どもに何かを伝えるには言葉のキャッチボールが一番だと思う。<4>『ほとんど憲法 上・下』は、小学生新聞で行われた子どもたちからもらったハガキと私の憲法エッセイの丁々発止の記録だ。この本で、ぜひ、子どもたちのハガキに示された自由な発想と、それを憲法解説につなげようとする大人の挑戦を楽しんでほしい。
<きむら・そうた> 1980年、横浜市生まれ。東京大法学部卒。2016年から現職。専攻は憲法学。『自衛隊と憲法』(晶文社)、『憲法という希望』(講談社現代新書)など著書多数。近著に『憲法学者の思考法』(青土社)がある。

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