「イヤホン難聴」の恐れ 大音量/長時間 内耳の細胞破壊 WHOも警告

2021年5月4日 07時25分
 コロナ禍の中、家で過ごす時間が増えている。オンライン会議などでイヤホンが必需品になった人も多いのではないか。しかし、イヤホンで大きい音を長時間にわたって聞くと、耳に負荷がかかり続けて音が聞こえにくくなる可能性がある。近年、40代以下の聴力が衰えているという研究結果もあり、専門家は「イヤホン難聴」や「スマホ難聴」に注意を呼びかけている。 (細川暁子)
 音は、外耳から中耳まで空気の振動として伝わる。振動は内耳の「蝸牛(かぎゅう)」で電気信号に変換され、それが脳に伝わると音として認識される。しかし、大きな振動が長時間加わると、蝸牛内に一万個以上あって、振動を電気信号に変える「有毛細胞」が少しずつ壊れて聴力が低下。耳にぴったりはまるイヤホンから出る音は外に逃げることなく内耳に向かうため、難聴の引き金になりかねない。
 愛知県豊田市の豊田浄水こころのクリニック副院長で、聴覚が専門の杉浦彩子さん(47)によると、有毛細胞が壊れる前なら、一時的に聞こえにくくなっても、耳を休ませたりビタミン剤を服用したりすると回復する。だが、いったん壊れてしまうと元には戻らない。
 電車内でイヤホンを使う人は多い。通常の会話は五〇〜六〇デシベルなのに対し、駅員のアナウンスなどが響く走行中の車内は八〇デシベルほどになる。そうした中、周囲の音にかき消されないようボリュームを上げると、耳に負荷がかかってしまう。
 世界保健機関(WHO)も、スマートフォンなどの普及による聴力への悪影響に警鐘を鳴らす。二〇一九年二月、世界の若者(十二〜三十五歳)の半数近くに当たる十一億人が難聴になる危険性があると警告。国際電気通信連合(ITU)とともに、安全な音の大きさの目安として、大人で「八〇デシベルで週四十時間まで」という基準を示した。
 対策としては、イヤホン使用時は静かな場所で、小さめの音量で聞くことを意識したい。電車や飛行機などで使う場合は、周囲の騒音を低減するノイズキャンセリング機能付きのものを選ぶといい。いずれの場合も、連続して聞くのは一時間程度をめどにする。
 杉浦さんは、家で過ごす時間が増えている子どもたちが、ユーチューブなどをイヤホンで聞き続けることを懸念。「イヤホンで大音量を聞く時間が生涯のうちに長くなるほど、難聴のリスクは上がる」とし、「子どもはできるだけイヤホンを使わないで」と訴える。

◆40代以下 聴力低下

 40代以下の日本人の聴力低下を裏付ける研究もある。国立病院機構東京医療センター聴覚障害研究室長の和佐野浩一郎さん(42)らのグループは、同センターで2020年までの20年間に聴力検査を受けた、耳の病気がない約1万人のデータを分析。10〜90代の年代別、男女別の平均聴力を世界で初めて算出し、3月に英医学誌「ランセット・リージョナル・ヘルス」電子版で発表した。
 それによると、40代以下は男女ともに、電話のベルの音の高さに当たる4000ヘルツに対する聴力の低下傾向が明らかになった。4000ヘルツは、騒音によるダメージが最初に顕在化する周波数という。00〜04年と16〜20年を比較すると、特に聴力の低下傾向が顕著なのは20代女性。20歳分も聴力が「老化」し、聞こえにくくなっていた。スマホが急速に普及したのは10年ごろのため、イヤホンなどの利用が影響しているとみられる。
 和佐野さんは「若いときは問題がなくても、耳へのダメージは蓄積し、少しずつ聞こえが悪くなる恐れがある」と注意を促す。

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