渡辺省亭展を見て 山下裕二 西洋と和、ハイブリッドな描法

2021年5月6日 13時10分

迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」七宝額下絵の展示風景(前期展示の様子)

 「渡辺省亭(せいてい)−欧米を魅了した花鳥画−」展は、満を持して企画された展覧会である。幕末に生まれ、明治〜大正時代に活躍した渡辺省亭(一八五二〜一九一八年)は、間違いなくこの時代に最高の画技を発揮した画家であり、在世時は人気画家だった。
 だが、後半生に公的な展覧会に出品しなくなったことが災いし、没後、その盛名は徐々に忘れられていった。これまで本格的な回顧展が開催されたこともない。そんな省亭に心寄せてきた私は、五年ほど前から、いつか省亭の本格的な展覧会が開催できないかと思っていた。今回、私と同様に省亭に心寄せてきた東京芸術大学教授の古田亮氏が中心となって、この展覧会を実現できたことがほんとうに嬉(うれ)しい。
 古田氏から展示構成案をある程度聞いてはいたが、会場に入ってかなり驚いた。まずは、大画面で省亭の生涯と作品を紹介する映像が流れる。作品のクローズアップを多用した映像で、迫力満点。一般的な知名度がほとんどない作家だから、まずはその概要を知ってもらってから作品をじっくり見てもらいたい、という配慮だろう。
 そして、作品を展示する最初の部屋には、迎賓館赤坂離宮の七宝額の下絵が、意外なかたちで展示されていた。この七宝額は、省亭が下絵を描き、濤川(なみかわ)惣助がそれをもとに制作したもの。その下絵をなんと、七宝額の周囲の造作をつくって嵌(は)め込むかたちで展示しているのである。この工夫に唸(うな)った。古田さん、やりますねえ…。
 その他の作品についても、独立ケースをつくって、一点一点、密にならないよう、じっくり対峙(たいじ)できるようにという配慮が感じられる。そこであらためて私が瞠目(どうもく)したのは、ここに紹介する「室積遊女長(むろつみゆうじょのおさ)」という作品。平安時代の僧・性空上人(しょうくうしょうにん)が生身(しょうじん)の普賢菩薩(ふげんぼさつ)を拝みたいと祈ったところ、遊女に出会い、上人が目を閉じると遊女は普賢菩薩に化したという伝説を描く。

《室積遊女長》(部分) 絹本着色 一幅 白澤庵 

 人物は江戸時代以来の伝統的な描法にのっとっているが、象はあきらかに西洋美術的な立体感を強調した描写。このいくぶん違和感のある画面こそ、日本画家として最初にヨーロッパに渡った省亭のありようを象徴する、ハイブリッドなものだと思った。省亭再評価は、この展覧会からはじまるのである。ぜひご覧いただきたい。
<やました・ゆうじ=明治学院大教授(日本美術史)> 1958年、広島県生まれ。東京大文学部美術史学科卒業、同大学院修了。96年、赤瀬川原平と「日本美術応援団」を結成するなどの活動を通じ、日本美術の普及と再評価に努めている。著書に『日本美術の底力 「縄文×弥生」で解き明かす』など。

◆現在は休館中

 「渡辺省亭−欧米を魅了した花鳥画−」(東京芸術大学大学美術館・台東区上野公園)は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため休館中。展覧会は二十三日まで。最新情報は公式HPで。その後、岡崎市美術博物館(二十九日〜七月十一日)、佐野美術館(七月十七日〜八月二十九日)へ巡回。

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