宮本亞門さん、東京五輪は「中止すべきだ」 参加を迷う学生ボランティアも コロナ禍で遠のく平和と平等の祭典

2021年5月7日 06時00分
<連載「五輪リスク」⑤開催意義>

「東京五輪は中止するべきだ」と語る演出家の宮本亞門さん

 1964年10月10日。東京・銀座に住む6歳の少年が、テレビの前でゾクゾクした興奮を感じていた。隣では母親が涙ぐんでいる。
 「高鳴るマーチ。色とりどりの衣装で行進する選手団…。赤のジャケットの日本選手団が入場した時、最高潮に達したんです」

 ◆宮本亞門さん、演出家目指した原点だったが…

 演出家の宮本亞門あもんさん(63)が、前回東京五輪の開会式の思い出を感慨深げに語った。「人々が信じ合い、一つになれる一瞬があった。演出家を目指した原点かもしれない」
 2度目の東京大会も期待していた。4年前には関連イベントの演出を担当し、東日本大震災の被災者や障害者とともにステージを作り上げた。
 しかし、新型コロナウイルス感染症に世界が震える今は違う。
 「高度な医療やワクチンを与えられるのは、お金を持つ人だけ。健康や健全を保てない人々が世界にたくさんいる。平和や平等を掲げる五輪精神と、正反対の事実が進行している。大会は中止すべきだ」

 ◆五輪への期待、千葉大の学生22人中8人が「ない」

 「キラキラ、ワクワク感よりも、感染リスクへの恐怖が大きくなった」(20歳女性)。「医療・補償などにお金を回すことが大事なのではないか」(21歳男性)
 本紙は4月、千葉大を拠点とする学生団体「おりがみ」に、東京大会に関するアンケートを実施した。大会ボランティアへの参加、大会関連イベントの企画を手掛けるグループで、22人が回答した。
 1年延期前の大会への期待について尋ねると、「非常にあった」「ある程度あった」と答えたのは計21人に上った。
 しかし、現在の期待については「非常にある」「ある程度ある」は計12人にとどまり、「あまりない」「全くない」が計8人に。
 大会ボランティアに採用中の学生は9人いる。このうち4人は、感染の不安や海外観客の受け入れ断念を理由に、「参加を迷っている」と答えた。
 その1人、郡司日奈乃さん(22)は「海外から客が来られず、交流がなくなった。分断された社会のまま大会が開催されてしまう」。
 参加継続を決めた5人からは「少しでも大会の空気に触れたい」「平和の祭典に学生として関わる機会はもう二度とない」などの声が聞かれた。

 ◆近代五輪の祖、クーベルタン男爵「五輪は平和と青春の花園」

 近代五輪の祖、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵は、こんな志を掲げていた。
 「五輪は単なる世界選手権ではない。平和と青春の花園だ」
 世界中の人々が戦争をやめて心を一つにし、平和を実感する。躍動する肉体と命のすばらしさを賛美する。性別、人種、宗教、国境…。お互いの差異を超え、誰もが内に秘める人間性を確認する。
 そんな「人類最大の祭典」の理想が、コロナ禍の東京では置き去りにされないか。
 国立競技場(東京都新宿区)に聖火がともるのは、7月23日。「大会はどうあるべきか」を考える時間は少ない。(この連載は、臼井康兆、原田遼、藤川大樹、岡本太が担当しました)
※次ページに学生の自由記述の回答をまとめました
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