ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方 リーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー著

2021年5月9日 07時00分

◆分かち合う役割がつなぐ社会
[評]近内悠太(教育者・哲学研究者)

 本書は、実践の書に見える。贈与経済つまりモノを買わずに暮らすための方法が系統立てて紹介されている。市場を介することなく、自身の所有物をゆずり、与え、そして、誰かから受け取り、分かち合う。そのための具体的方法論が本書の主軸である。
 しかし、本書は、理論書でもある。贈与経済の眼目の一つは、共同体の回復である。人と人のつながりをどのように確保するのか? 言い換えれば、社会をどう結び直すか? という問いに答えることのできるシステムとして期待されているのだ。
 キーワードは「役割」である。私たちは、自身の役割を果たすことで、この社会とちゃんとつながっていると感じることができる。裏を返せば、人の役に立っていないと感じると、不安感や無力感を抱き、自己肯定感が毀損(きそん)される。
 「ひとりひとりがかけがえのない役割を果たすギフトエコノミー」という表現が登場する。著者の一人であるリーズルが訪れたヒマラヤでのエピソードにこの言葉の真意が示されている。牧歌的な生活を営んでいるある村にて、リーズルは世話になったお礼として、多くの冬用衣類を村にプレゼントしようとしていた。すると村のリーダーの女性がこう言った。「村には17の家族があるので、服は17の山に均等に分けてください。すべての山に大人の服と子どもの服を同じ量入れます」。しかし、リーズルは十七の家族構成に合わせて、ある家族にはベビー服を除いて大人用の服を足そうとしたりした。するとリーダーの女性がこう言ったのだ。「お年寄りにも子どもの服を渡せば、お年寄りはそれをゆずることができます。すべての家族が同じものを受け取ることで、みんなが『ゆずる側』と『もらう側』に立つことができる。それによって村は健全に保たれます」
 つまり、それを必要とする別の家族に「あげる」ために一度「所有する」のだ。自分には何が不要か、というのはひとりひとり違う。その差異から、所有物を他者に手渡すという役割が発生するのだ。「役割」の発生原理がここにある。
(服部雄一郎訳、青土社・1980円)
リーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー 「買わないプロジェクト」を立ち上げブームに。

◆もう1冊 

阿部彩著『弱者の居場所がない社会 貧困・格差と社会的包摂』(講談社現代新書)

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