「異郷」としての日本 技能実習生描く「海辺の彼女たち」公開 藤元 明緒(あきお)さん(映画監督)

2021年5月8日 13時12分
 日本は「おもてなし」の国だという。だが、弱い立場の人、寄る辺なく生きる人にはどう見えているのだろう。藤元明緒監督(33)の映画「海辺の彼女たち」は、技能実習生として来日したベトナム人少女の視点から、「異郷」としての日本の実像を浮き彫りにする。
 映画は、実習先の過酷な労働環境に耐えきれなくなったフォン、アン、ニューの三人がある夜、寝泊まりしていた倉庫から脱出するシーンから始まる。ブローカーの案内で向かった先は雪国の漁港。三人は不法就労という危うい立場でも、母国の家族のためを思って懸命に働く。だが、やがてフォンが体調を崩し−。
 「自分を犠牲にしてまで稼がなきゃいけないとはどういうことなのか。その人たちの思いをくんだ映画を作りたいと思いました」と藤元さんは語る。制作のきっかけは、二〇一六年にミャンマー人実習生から届いた「逃げたい」というメール。結局その人とは連絡が途絶えたが、実習生のことが気になりだした。
 技能実習生は、国際貢献という理念と、安価な労働力の供給源という現実のはざまで生きている。藤元さんは約二カ月、失踪した当事者や支援者を取材した。「逃げたくても、心配をかけるから家族に言えない。誰にも相談できない。孤独感が印象に残りました」
 それを象徴するシーンがある。体調を崩したフォンは正規の身分証も持たずに、吹き付ける雪に耐えながら病院を目指して一人で歩き続ける。その先に救いがあるのか、フォンにも私たちにも分からない。一分一秒が異様に長く感じられ、心細さが染み込んでくる。
 日本に生きる移民はデビュー時からのテーマだ。第一作「僕の帰る場所」はミャンマー人の少年が主人公。生まれ育った日本と祖国ミャンマー、二つの故郷の間で揺れ動く姿を描いた。これも、在日ミャンマー人との交流で知った実話を基にした作品だ。
 デビューの経緯が変わっている。「ミャンマーで映画を撮れる人募集」という監督オーディションをSNS上で見つけ、応募した。もともと熱心な映画ファンではなかったが、テレビの編集マンかカメラマンを目指して大学卒業後に入った専門学校の授業で「映画は楽しい、楽しくないだけではない。共感させる力がある」と感銘を受けた。
 当初「どこにあるかも知らなかった」ミャンマーだが、その後も深く関わることに。日本で働いていたミャンマー人女性と知り合い、結婚。一人息子はもうすぐ二歳になる。
 そのミャンマーでは二月以降、クーデターで権力を握った国軍が市民への弾圧を続ける。妻の故郷の街も被害が大きく、気が気でない。「僕は映画作りしかできない。ミャンマーに関心を持つきっかけになれば」と、前作のチャリティー上映にも取り組む。
 自分の持ち味を「半径五メートルのことを誠実に映画にすること」だと語る。「よく映画業界では『半径五メートルのことしか描けない』という批判があるのですが、僕が人に出会って聞いた話、暮らしの中で感じたことを、誰にでも伝わる普遍的な映画にしたい」
 日本に限らず、移民に冷たい目を向ける人は少なくない。「そういう人にも見てほしい。彼女たちの生きている世界をじっくり体験したら、意見が変わるかもしれない。心の隔たりを映画を通して解体できれば」
  (谷岡聖史)
     ◇
 「海辺の彼女たち」はポレポレ東中野(東京)、名古屋シネマテークで上映中のほか、シネモンド(石川)など全国で順次公開。一部の劇場では、配給収益の全額をミャンマー市民の支援に充てる「僕の帰る場所」のチャリティー上映も(ポレポレ東中野では二十二〜二十八日)。

映画「海辺の彼女たち」より (C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films


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