金券ショップを通じ「循環」 内部チェックのずさんさ背景に 芝郵便局の切手横領事件

2021年5月10日 06時00分

金券ショップの商品ケースに並ぶ切手=東京都内で(写真と本文は関係ありません)

 職場にあった切手を着服し、金券ショップで換金したとして業務上横領罪に問われた郵便局の元課長の判決が10日、東京地裁で言い渡される。着服額は約1億7000万円に上る。なぜ、多額の切手を手に入れ、換金できたのか。取材を進めると、内部チェックのずさんさを背景にした錬金術が浮かんだ。(井上真典)
 同罪に問われたのは、芝郵便局(東京都港区)の元会計担当課長細畑真佐樹被告(49)。2015~17年に計1億7980万円分の使用済み切手を着服したとされる。

切手の横領が発覚した芝郵便局=東京都港区で

 「ごみを再利用して何が悪いのでしょうか」。捜査関係者によると、細畑被告は日本郵便の社内調査にこう話したという。
 細畑被告は「ごみ」と表現した使用済み切手を現金に換えていたのだが、そこにはからくりがある。
 細畑被告は使用済み切手を管理する立場だった。保管庫にある使用済み切手を紙袋で持ち帰り、葛飾区の金券ショップで原価の77%前後で換金していた。
 郵便局は、郵便物を大量に送る顧客のため、封筒やはがきに切手をいちいち貼らず、「料金別納」とスタンプして送れる制度を用意している。顧客は料金相当額を切手でも支払える。
 細畑被告が着服したのは、ダイレクトメールなどを料金別納で送るため、大口顧客の企業2社が持ち込んだ大量の切手だった。2社は送料節約のため、切手を金券ショップで原価の96%前後で購入していた。
 日本郵便の社内規則では、こうして持ち込まれた切手は、窓口で使用済みの消印を即日押すルールだったが、徹底されず、押印されていない切手が保管庫に放置されていたという。
 細畑被告の元同僚の局員は「どうせ廃棄するし、大量だと押印が面倒と考えてしまう。押印のチェックが緩い上司だと、一番上の切手シートだけしか押印しない。横領は昔からあり、氷山の一角」と明かす。
 捜査関係者によると、細畑被告は葛飾区の金券ショップを約270回利用。店には常連客として専用のファイルが置かれていたという。
 店員は本紙の取材に「数百万円単位の金券を持って来る客はいるが、どこから持ってきたのかは調べられない。こちらも売り上げになり、ありがたい」と話した。

◆相次ぐ切手横領

 郵便局員が切手を着服し、金券ショップで換金する不祥事が近年、相次いでいる。本紙の取材では、芝郵便局を含め、2018年以降に東京都と大阪府で計4件が発覚し、着服総額は6億円を超える。
 都内では芝郵便局以外に、18年3月に神田郵便局(千代田区)、19年4月にサンシャイン60内郵便局(豊島区)で、不祥事が発覚している。日本郵便はこの2件も刑事告訴に向けて警視庁に相談している。
 大阪では、堺中郵便局(堺市)の元総務部長が計約1億3000万円分の切手を横領したとして、昨年12月に逮捕された。
 関係者によると、神田郵便局の元総務部課長代理=懲戒解雇=は、14~16年度、料金別納の相当額として顧客から受け取った4億円分の切手を着服し、換金していたという。
 芝と神田では、顧客から受け取った切手を使用済みにする消印を窓口担当者らが押し、立会人を置いて即日細断処分する規則が守られていなかった。発覚を受け、同社は18年3月、再発防止策として窓口で押印後にもう1人がチェックし、回収業者に渡す仕組みに変更した。
 しかし、5カ月後の同年8月~19年4月、サンシャイン60内郵便局で元課長代理=同=が、顧客から受け取った切手527万円分の切手を着服し、金券ショップで換金していたことが判明した。
 企業の不祥事に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授は「かんぽ生命の不適切販売をはじめ、内部統制が組織的に機能していない。切手はお金と一緒という意識もない。上も下も無責任体質があるから、対策にも魂が入っていない。再発防止策を考え直す必要がある」と指摘する。

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