生き生き新聞ちぎり絵 90歳から作品集2冊

2021年5月10日 07時30分
 90歳から新聞紙を使ったちぎり絵を始め、その豊かな表現力が評判を呼んでいる人がいる。奈良県桜井市の木村セツさん(92)。作品とインタビューから成る本『90歳セツの新聞ちぎり絵』(里山社、1980円)は、昨年2月の刊行から5刷と版を重ね、今年2月には新作中心の第2弾が出た。 (北爪三記)
 ブロッコリーにいちご、車海老(えび)、お弁当…。作品はどれも見た瞬間、絶妙な色合いと質感にくぎ付けになる。「今年一番気に入ってるのは、エビ。背の光ってるところ、一本筋の白い紙で切ったら情がわかへんから、文字でも細かに切って貼っていったらちょうどええかな思いまして」。電話口からセツさんの柔らかな声が届く。
 新聞ちぎり絵を始めたのは、二〇一九年の正月。前年十一月末に夫弘(ひろむ)さん(享年九十)を亡くし気落ちしたセツさんを案じて、一緒に暮らす長女幸子さんが勧めたのがきっかけだった。セツさんは十六歳で終戦を迎え、二十四歳で結婚。弘さんと養鶏や農業などを営み、三人の子どもを育てた。これまで趣味と呼べるものはなかったというセツさんにとっていま、新聞ちぎり絵は「生きがい」と言う。
 実物や写真を見て下絵を描き、色分けしておいた新聞紙から使う色を選ぶ。次々と生み出される作品を、孫で漫画家・イラストレーターの木村いこさん(39)がツイッターで紹介すると、フォロワー数は四万三千に上った。昨年、各地で開いた原画展で「作品がほしい」との声が多く上がったのを受け、第二弾の本『91歳セツの新聞ちぎり絵』(一六五〇円)を刊行した。収録した三十二点の作品が、一枚ずつ切り離して飾ったり、はがきにしたりできるポストカードブックだ。

新聞紙を使ってちぎり絵を作る木村セツさん=佐伯慎亮さん撮影

 寄せられる感想も励みに、作品作りは三年目。セツさんは「よく観察して、細かいところまで作れるようになりました」と自身の進化を実感する。亡くなる数カ月前に弘さんから掛けられた言葉が胸にある。「『いくつになっても勉強しなあかんよ』って。お父さんの遺言みたいになったなと思うてね」。題材を一緒に考えるなど、作品作りに協力する幸子さんも「母が一生懸命楽しんで作ってる姿を見てるのが、わたしもうれしいしね」と喜ぶ。
 本でセツさんのインタビューを手掛けた里山社代表の清田麻衣子さん(43)は「とにかく明るく、たくましい。そういう人柄も知ってほしかった」と話す。はがきや電話で反響が届くほか、今年三〜四月に東京都内で開いた原画展では、来場者のつづった感想が十日余りでノート一冊分にもなった。
 そのほとんどが女性。「自分も何かできるんじゃないかと勇気をもらった」という声が目立つという。支持を集める理由を清田さんはこうみる。「家庭の中で自身を顧みず家族のために生きてきた女性は多い。セツさんのように、いくつになっても秘めているものが花開くのは、希望なのではないでしょうか」

セツさんお気に入りの一つ「車海老」。ひげにはこよりが使われている

おいしそうな「お弁当」

彩り鮮やかな「いちご」


関連キーワード

PR情報

東京ブックカフェの新着

記事一覧