<社説>経団連会長交代 存在意義から問い直せ

2021年5月11日 06時51分
 経団連の中西宏明会長の退任が決まった。体調問題が理由で、やむを得ない判断だ。経団連自体の影響力低下が著しい中、新体制では存在意義も含めて組織のあり方を根本的に問い直すべきだ。
 日立製作所の会長でもあった中西氏はリンパ腫で闘病中だった。財界のリーダー役を続行することは困難だと自ら判断したことは妥当だとしても、後任人事には失望を感じざるを得ない。
 次期会長に内定した住友化学会長の十倉雅和氏の決定をめぐっては、経団連内で要職を務める経営者同士の水面下の調整により、無難な人選に落ち着いたとの印象がぬぐえない。
 経団連で最も深刻なのは、時代を見据えた情報発信能力の欠如である。コロナ禍を巡っても、企業や社会を救うための有効な提案を発する場面は少なく、経済界を代表する組織としては物足りない。
 景気の低迷期であっても、政府や日銀が金融緩和で株価を下支えし、多くの大企業の財務環境は良好だ。その結果、企業の内部留保は過去最高額に達している。
 にもかかわらず、経団連は今年の春闘でも、賃金を抑制する姿勢ばかりが目立った。
 大企業の経営者が足元の決算を優先し、人件費の削減ばかりに注力する姿勢は、経団連内部にも浸透しているのだろう。
 旧態依然気味の人事を繰り返して、国民生活への目線も欠く経団連が生まれ変わるには、新しい産業にも通暁し、日本経済全体をけん引する力量を備えた人材の抜てきが必要なはずだ。
 中西氏が正式に退任する六月の定時総会では、IT大手「ディー・エヌ・エー(DeNA)」の南場智子会長が経団連史上初の女性副会長に就任するが、例えば南場氏を含む新興勢力のトップの中から後任の会長を選び、それを副会長が支える体制を敷くのも一案ではなかったか。
 株価の時価総額をみると、日本勢は米中の企業と比べて苦戦してはいるが、国内総生産(GDP)は世界第三位を維持し、有数の対外債権国でもある。
 問題は保有する莫大(ばくだい)な資金を生かす技術革新能力の低下だ。名だたる企業が参加する経団連は改革の先頭に立つべきだが、現実はかけ離れた存在になっている。
 経団連が政治と深く関わり影響力を発揮する時代は終わった。既存勢力の維持に腐心するのではなく、時代と向き合う新たな組織の構築を強く求めたい。

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