<社説>国民投票法改正 改憲議論の環境整わぬ

2021年5月12日 07時17分
 憲法改正の是非を問う手続きを定める国民投票法の改正案が衆院を通過した。今国会成立の見通しだが、改憲の必要性に乏しく、法案には不備も残る。改憲発議の環境が整うと考えるのは早計だ。
 改正案は、駅や商業施設などに共通投票所を設置したり、期日前投票の時間を柔軟に設定できるようにするなど、国政選挙と同様の投票環境を整備する内容だ。
 自民、公明両党などが三年前に提出した。当時の安倍晋三首相主導の改憲論議を警戒する野党側の反発で憲法審査会での採決が見送られてきたが、立憲民主党の修正要求を自民党が受け入れたため、六日の審査会で可決され、十一日に衆院を通過した。
 自民党は、改正案を成立させることで改憲論議を前進させたいのだろう。党総裁である菅義偉首相は憲法記念日の三日に開かれた改憲派集会に寄せたメッセージで、国民投票法改正を「改憲議論を進める最初の一歩」と述べた。
 とはいえ、これで改憲発議の環境が整うと考えるべきではない。
 第一に、改憲しなければ、国民の暮らしが著しく脅かされるような状況ではない。要は、改憲を必要とする立法事実が存在しない。
 自民党は、自衛隊の明記、高等教育の無償化、緊急事態条項の創設、参議院の合区解消という改憲四項目を掲げてきた。
 このうち、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、必要性が特に強調されるようになったのが、災害時などに政府の権限を一時的に強める緊急事態条項で、首相は七日の記者会見で「国民の関心は高まっている」と言及した。
 しかし、感染拡大は憲法問題ではなく、後手に回ったと指摘される対策の失敗にほかならない。改憲に言及するよりも、自らの政策の稚拙さを反省すべきだろう。
 第二に、国民投票法の改正後も残る法制上の不備である。
 まず、テレビやインターネットの広告規制がなく、運動の資金量が国民の投票動向を左右する懸念がある。立民の要求を受けて改正案の付則に、施行三年後をめどに法制上の措置などを講じることが加えられたが、具体的な規制は先送りされている。国民投票が成立する条件とすべき最低投票率についても定めがない。
 改正手続きが明記されている以上、現行憲法は改正が許されないわけではないが、その必要性があり、丁寧な議論と幅広い合意形成が前提だ。党利党略で強引に進めることがあってはならない。

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