学校を休んででも訴えた「62%減」 温暖化止めずに「明るい未来が待ってる」って言えますか?

2021年5月12日 12時00分
 高校生や大学生らが学校を休み、政府に地球温暖化対策の強化を求めた4月の「学校ストライキ」。政府に2030年度の温室効果ガス排出削減目標を「13年度比62%減」に見直させるのが訴えの柱だったが、菅義偉首相は「13年度比46%減」とし、隔たりは大きかった。学校を休むという手法には仲間内でも異論があり、周囲から批判も浴びた。学校ストは何を残したのか。(福岡範行)

国会議事堂前での「学校ストライキ」で温室効果ガス排出量の「62%減」を訴える大学生ら=2021年4月16日

 金曜日にあった学校ストの3週目、4月16日夕方、国会議事堂前での学生らのスピーチは悲痛だった。既に、政府が約45%の目標を示すと報じられていた。
 参加者の一人が「私たちはこうやって訴えるだけで、社会が変わるなんて甘い考えは持っていません。だけど、もうちょっとなんとかなるんじゃないか」と涙ながらに訴える。続いて拡声器を持った東京都内の女子中学生(14)は、温暖化による災害激化の不安を語り、声を強く震わせた。
 「大人は『明るい未来が待っている』と言います。なんで、そんなことが言えるんですか。毎日、毎日、私たちの未来と、私より年下の世代の未来が不安で、何時間も泣く日もあるのに、なんでそんなことが言えるんですか」

◆30年にも1.5度上昇 私たちと科学者の声を聞いて

 不安の根拠は、世界の科学者たちの警鐘だ。学校ストでは「私たちと科学者の声を聞いてください」という訴えが繰り返された。
 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は18年、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えないと、暑さによる病気やマラリアなどの感染症のリスクが増大する恐れが高いとし、早ければ30年にも1.5度に達するとまとめた。温暖化の悪影響は、若い世代ほど強く受けることになる。
 学校ストで参加者が掲げた「62%減」は、国際研究機関「クライメート・アクション・トラッカー」が3月、1.5度目標の達成のために日本に求められていると指摘した削減幅だ。4月22日、政府が「13年度比46%削減し、50%の高みに向けて挑戦を続ける」との新たな目標を示すと、参加者に落胆が広がった。

◆発言機会は増えたが…得られぬ手応え

 訴えが届かない経験はこれまでもあった。参加者の多くは、温暖化対策強化を求める世界の若者らの活動「Fridays For Future(未来のための金曜日、FFF)」のメンバーたちだ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)に触発されて、日本では19年2月ごろから全国各地に広がった。小泉進次郎環境相との意見交換会や、政府の有識者会議で発言する機会を得たが、若者の意見にコメントせずに持論だけ語る有識者の委員がいるなどし、自分たちの意見が政策に反映されていく実感をあまり得られなかった。
 新型コロナウイルスの感染防止との両立にも悩んだ。インターネット上のセミナーや閣僚への手紙送付など、非接触型の活動に力を入れた。20年4月には会員制交流サイト(SNS)のTwitterで「#気候も危機」というハッシュタグ(検索目印)の付いた投稿を多く集め、話題の言葉を意味する「トレンド」に入れることにも成功した。
 それでも活動は伸び悩んだ。FFFメンバーからは「SNSで広がっても一過性でしかなかった。この1年いろいろ試したが、すごく難しかった」との声が漏れる。

◆新型コロナ禍で葛藤 学校ストに反対意見も

 手応えがつかめないまま、今春、政府の30年度の温室効果ガス排出削減目標が見直される時期が迫った。目標の引き上げ幅が不十分なら、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることは難しくなる。メンバー有志が「やれることを全部やろう」と学校ストライキを発案した。発起人の一人、東京都の高校3年山本大貴さん(17)は当時の心境を「投げやりのがむしゃら感があった」と打ち明けた。
 ただ、学校ストの効果を疑問視する意見は、当初からFFF内にあった。新型コロナの新規感染者が3月後半から急増した大阪府の大学4年小林誠道さん(21)は「外でのアクションはマイナスイメージになるんじゃないか。今、やらない方がいい」と考えた。デモや抗議活動そのものにも「日本では、暴動のイメージが根深く染み付いている」と限界を感じ、活動の力点を地元の自治体や議員への働き掛けに移してもいた。

高校を休み、経済産業省前での「学校ストライキ」に立った山本大貴さん(右端)=2021年4月9日

 「学校教育を受けられない人もいる。学校に行けているのに、ストライキするのはどうなのか」という意見も複数あったという。
 議論の末、学校ストは全国各地の有志の取り組みとして、昼と夕方1時間ずつの短時間でスタートした。感染拡大を踏まえ、みんなで大声で訴える「コール」を控えるようにもなった。

◆高校生は決意を記した紙を学校の机に貼った

 学校を何度も休むことに、同級生らの反応はどうだったのか。山本さんは高校3年への進級で知り合いが半分もいないクラスになったといい、「最初はよそよそしくて、警戒されている感じがありました」と振り返った。担任教諭からは個人面談で「学校は大事だ」と諭された。
 それでも「将来、安心して暮らせるとなって初めて、学校にいける」と考え、学校ストは止めなかった。新学期に入って初の学校ストとなった4月9日には、休む理由を書いた紙を教室の自分の机に貼った。

山本大貴さんが高校の机に貼った「学校ストライキ」を説明する紙

 変化が生まれたのは、山本さんらが訴える「62%減」を説明する報道が出始めたころだ。「学校で、『新聞を見たよ』と言われて。みんな『46』と『62』の数字を覚えてくれた」。
 ネット上では62%減の訴えを「到底、不可能だ」と批判する意見もあった。山本さんは目標値が議論されたことに手応えを感じた。「若者が気候変動対策を訴えた、で終わらず、届けたい内容が伝わった」

◆自分たちが決定権を持った時に手遅れだったら意味がない

 ただ、国の政策を変えるハードルは高い。政府の削減目標見直しから一夜明けた4月23日、学校スト有志の大学2年中村涼夏さん(19)=鹿児島県=は衆院環境委員会に参考人として出席。46%減の目標を「50年までの脱炭素社会実現との整合性はなく、気候危機から国民の命を守る責任を放棄した」と批判した。
 委員会を後にする際、小泉環境相とすれ違った。中村さんが「46%、残念でした」と声をかけると、小泉氏は立ち止まり「自分なりに頑張ったんだ」という趣旨の返事をしたという。中村さんは「気候変動に対する認識がまだ、私たちとはずれている」と感じた。
 「社会に出て、自分たちが決定権を持った時に手遅れだったら意味がない」。学校ストの参加者たちから、よく聞いた言葉だ。中村さんが国会議員に立候補する権利を得るまで5年余り。国会前で訴えた女子中学生は3年ほど待たないと、選挙権すらない。限られた時間の中で、政治にどう声を届けるのか。学校ストに参加した有志も、そうでないFFFメンバーたちも模索が続く。

国会議事堂に向かって温室効果ガス排出削減目標の大幅な引き上げを訴える「学校ストライキ」の参加者たち(手前)。小中学生の姿もあった=2021年4月16日

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