「官邸のデジタル独裁につながりかねない」 改革6法成立に法律家ら抗議

2021年5月13日 06時00分
 菅義偉首相が看板政策に位置づけるデジタル改革関連法は12日、政権発足から8カ月という短期間で成立した。国会審議で野党が追及した懸念は、目玉のデジタル庁設置法よりも、本人の同意がないまま個人情報の利活用などができる改正個人情報保護法に集中。利便性を重視する政府の姿勢が際立ち、成立に反対してきた法律家らは抗議の声を強めている。(井上峻輔、清水俊介)

◆「霞が関の常識を超えるスピード」で準備

 首相は12日の法成立後、官邸で記者団に「長年の懸案だったわが国のデジタル化にとって、大きな歩み。誰もがデジタル化の恩恵を受けることができる社会をつくっていきたい」と強調した。
 首相がデジタル庁の構想を表明したのは、就任前の昨年9月の自民党総裁選。背景には、コロナ禍で表面化した官民のデジタル化の遅れがあった。1人10万円の特別定額給付金の支給を巡る混乱などが起き「デジタル敗戦」とも呼ばれたため、喫緊の課題に据えた。
 政権発足後は「霞が関の常識を超えるスピード」(平井卓也デジタル改革担当相)で法案の準備を進めた。司令塔となるデジタル庁の発足を今年9月1日に設定しており、最初からスピード審議が前提だった。

◆保護制度統一に懸念

 野党が批判を強めたのは改正個人情報保護法だ。
 民間や国の行政機関、地方自治体などの個人情報保護制度を統一する内容。政府が目指す「データの利活用」を自治体にも広げる狙いがあるが、さまざまな懸念が指摘されている。
 まずプライバシーを侵害する可能性。法の規定は、本人の同意がなくても行政機関が「相当の理由」「特別の理由」があると判断すれば個人情報の目的外利用や提供ができる内容になっている。このほかにも、匿名加工した米軍横田基地訴訟の原告名簿などを民間に提供しようとした事実が明らかになっており、野党は要件の厳格化や個人情報の取り扱いを自ら決定する自己情報コントロール権の明記を求めたが、政府・与党は適正に運用していくとして応じなかった。
 保護制度の統一によってルールが緩やかになり、これまで自治体が個別の条例で定めてきた保護水準が後退する懸念もある。

◆監視や漏えいにつながる?

 デジタル庁は首相直轄で強い権限を持つため、国民の個人情報が集積されれば、監視や漏えいにつながる恐れも否定できない。
 首相は国会審議で「個人情報の一元管理を図るものではない」と繰り返し強調。平井氏も12日の法成立後、記者団に「監視型の社会をつくっていくのではなく、個人情報の利用と保護のバランスを図っていく」と理解を求めた。

◆「利活用を監督できる法整備も一体に」

 だが、野党や成立に反対してきた法律家の警戒感は強い。12日の参院本会議で、反対討論に立った共産党の伊藤岳氏は「デジタル技術で国民の利便性を向上させることは大切だが、利活用を監督できる法整備と一体に行われなければならない」と主張した。
 法律家らが12日に発表した抗議声明では「官邸によるデジタル独裁につながりかねない危険がある」と指摘。個人情報保護委員会の監督対象が民間から自治体、省庁へと広がるため、組織強化も提案し、三宅弘弁護士は記者会見で「保護の活動が適切に行われているか市民がチェックしていく必要がある」と訴えた。

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