入管法「改悪」 日本は難民を「犯罪者」に仕立て上げるか<寄稿>安田浩一さん

2021年5月12日 23時28分
今年3月に名古屋入管で亡くなったウィシュマさん=遺族提供

今年3月に名古屋入管で亡くなったウィシュマさん=遺族提供

 2014年3月、寒風が吹きこむパブの中庭で、志を同じくする者たちが“誓い”を立てた。ロンドン郊外のハマースミス地区。英国の入国管理事情を視察に来た日本の弁護士グループは、寒さに身をすぼめながらグラスを突き合わせた。
 基本的人権を無視した日本の入管制度に、弁護士として真っ向から戦いを挑む―。凍てつく夜の熱い決意は「ハマースミスの誓い」と名付けられた。その場でつくられた誓約書にサインした10名の弁護士は、日本と大きく違う英国の入管行政に衝撃を受けていた。収容施設で、被収容者は自由に動き回っていた。ジムや図書室も完備され、インターネットの利用も可能だ。権限と独立性を持つ視察委員会が、施設の運営状況に問題がないか、厳しいチェックを繰り返してもいる。
 「そこには日本の収容施設では目にすることのできない人権が生きていた」
 “誓い”の音頭を取った児玉晃一弁護士はそう振り返る。日本の収容施設では、人権は施設の門前で立ち止まる。刑務所と見まがうばかりの閉鎖性、上限の定めがない無期限収容が特徴だ。だからこそこれまで、国連の恣意的拘禁作業部会をはじめ、さまざまな国際機関が日本の入管施設運営に懸念を寄せてきた。
 今年3月、名古屋入管の収容施設に収容されていたスリランカ人女性ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(33)が亡くなった。面会を重ねた支援者によれば、彼女は年初から体調を崩し、誰の目にも衰弱は明らかだった。入管側に何度も外部の病院に移すよう求めたが、認められることはなかった。
 ウィシュマさんの死亡後、実は病状が即入院すべきレベルで、一時的に収容を解く「仮放免」を医師が勧めていたことも明らかとなった。だが、入管は自らの責任を一切認めていない。それどころか収容中の監視映像を求める遺族の切実な訴えも、保安上問題があるとして拒否している。
 収容施設での死亡事例は後を絶たない。過去15年間で、少なくとも17人の外国人の死亡が報告されている。長期収容が横行し、医療も精神的ケアも不十分。問題の根源が収容者に対する入管の人権軽視政策にあることは明らかだ。
 政府はこうした実態を放置したまま、さらに入管の権限を拡大させるだけの入管難民法改正案を今国会で成立させようと躍起になっている。改正案は難民申請の回数に制限を加え、国外退去に従わない者には刑事罰の適用も検討されている。祖国に帰れないやむを得ない事情がある外国人を、保護するどころか、法の運用で「犯罪者」に仕立てあげるものだ。
 法学者の大沼保昭が著した『単一民族社会の神話を超えて』によると、戦前の入管は内務省の管轄で、実務の担い手は特高警察だった。戦後の一時期も旧特高出身者に引き継がれ、朝鮮人などの監視を主業務としたという。入管の隠蔽体質や強権的な姿勢は、こうした出自が影響しているのでは、と疑わざるを得ない。
 前出の児玉弁護士は、いま、入管法「改悪」反対運動の先頭に立つ。「改めるべきは、在留資格を持たない外国人を問答無用で収容施設に追いやることのできる“全件収容主義”だ」と語気を強める。
 外国人政策は、国の人権意識を測る試薬だ。日本で生きたいと願う人々を守るのか、追い出すのか。難民認定率が1%にも満たないこの国で、問われているのはそこだ。命の問題だ。国際人権法に照らしても、これ以上の後退は絶対に許されない。 (やすだ・こういち=ノンフィクションライター)

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