<中村雅之 和菓子の芸心>「京観世」(京都市・鶴屋吉信) 龍が井戸に残した波紋

2021年5月14日 07時33分

イラスト・中村鎭

 室町時代前期、観阿弥・世阿弥の親子は三代将軍・足利義満に気に入られ、庇護(ひご)を受けるようになった。これこそ能が、それから六百数十年たった今も受け継がれ続けているきっかけだった。
 義満が親子に与えたと言われる屋敷の跡が、今でも京都市上京区の西陣の住宅街の中に、ひっそりと残っている。この屋敷には、徳川家康に仕えた九世観世大夫・黒雪(こくせつ)まで住んでいたとされる。
 辺り一帯は、その名も「観世町」。屋敷跡には、「観世稲荷社」と「観世井(かんぜい)」(井戸)が残る。観世稲荷社の小さな社(やしろ)には、「一足稲荷大明神」と併せて「観世龍王(りゅうおう)」が祀(まつ)られている。
 伝説によると、ある時、屋敷の一角にあった井戸に龍が天から舞い降りたという。その龍を神として祀ったのが観世龍王。龍が残した波紋は、いつまでも残っていたとも言われている。
 この波紋が紋様化され、「観世水」として観世流の紋様となった。観世水は、稽古用の仕舞扇や謡本にもあしらわれている。
 各地のデパ地下にも出店していて、京都を代表する和菓子屋の一つとして知られる「鶴屋吉信」。この店で、「柚餅(ゆうもち)」と並ぶ銘菓が「京観世」。2020年には誕生から100周年を迎えた。
 餡(あん)に砂糖と粉類を混ぜ合わせて蒸し、そぼろ状にした「村雨」と小豆の粒が入る小倉羹(おぐらかん)を巻き上げた棹物(さおもの)。切ると波紋が浮かび上がる。華やかな京菓子の中にあって、見た目も味も地味。しかし、これがかえって飽きずに長く愛される理由なのだろう。
 最近は、小倉餡を観世水の形に整え、軽く焼いた半生(はんなま)の「観世井」(本店、直営店での限定販売)もある。 (横浜能楽堂芸術監督)
<鶴屋吉信本店> 京都市上京区今出川通堀川西入る。(電)075・441・0105。1棹(さお)1512円。

観世稲荷社=京都市で


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