<社説>ワクチン便宜 国民裏切る不公平だ

2021年5月14日 07時51分
 愛知県西尾市が地元有力企業の会長夫妻に新型コロナウイルスのワクチンを優先接種できるよう便宜を図っていた。高齢者が「一日も早く」と願う接種実務を担う自治体として、不公平極まりない。
 市が便宜を図ったのは、スギ薬局を展開するスギホールディングスの創業者会長(70)と、同社相談役の妻(67)=同市在住。
 「市政への貢献」を理由にしたスギ側からの執拗(しつよう)な要請に抗し切れず、近藤芳英副市長が、同市で高齢者の集団接種が始まる十日以降に夫妻の予約枠を確保するよう指示していた。十日に本紙の取材を受けて市は夫妻の予約を取り消した。
 近藤副市長は記者会見で「浅はかだった。貴重なワクチンの取り扱いについて公平性を欠き、市民におわびしたい」と述べたが、ワクチン接種の最前線で実務を担う自治体幹部として、市民だけでなく国民への背信行為だったと重く受け止めるべきである。
 夫妻がこれまで、健康増進施設を建設し、その土地と建物を無償貸与するなど市政に貢献してきたのは確かだ。しかし、それを理由に、無理を押し通すような姿勢は許されないし、市への貢献を色あせたものにしてしまうだろう。
 西尾市での接種の便宜をめぐる不祥事は、コロナ対策の切り札として、全国で本格化してきたワクチン接種の問題点を浮き彫りにしたともいえる。
 電話やネットによる「早い者順」の予約が主流のため、予約電話等が殺到し、回線がパンクする自治体も出ている。ネットに不慣れで、予約できずに取り残され、不安を募らせる高齢者も多い。
 神戸市では「お助け隊」と呼ばれる大学生などのアルバイトを区役所や図書館などに配置。訪れた高齢者のネット予約を手伝って効果をあげたという。
 広島市のように、福祉施設の入所者や入院患者、高齢者でも八十歳以上の人から先行させるなど、優先順位をつけてスムーズな接種を図ろうとする自治体もある。
 感染が拡大し、コロナとの戦いが正念場を迎えている今、国民は不安のただ中にある。こうした状況下で肝要なのは、国民に「われ先に」と焦る気持ちを抱かせないよう、円滑かつ公平な接種の進め方を示すことだろう。
 やがては、ワクチン接種は幅広い年代に対象を拡大する。国は、各自治体の高齢者対応での教訓を踏まえ、安全で効率的な仕組みを確立してほしい。

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