二十面相 暁に死す 辻真先著

2021年5月16日 07時00分

◆焼け跡に戻った少年探偵団
[評]郷原宏(文芸評論家)

 辻真先氏は、日本ミステリー界のレジェンドです。昨年、『たかが殺人じゃないか』で三大ベストテンの首位を独占して、ファンを驚喜させました。オリンピックでいえば、金メダル三個分の快挙です。
 その伝説的な作家が、今度は江戸川乱歩の『少年探偵団』の設定を生かした冒険小説シリーズを書き始めました。パロディでもなければシークェル(続編)でもありません。あくまで著者の独創によるオリジナル・ストーリーです。
 本書は『焼跡の二十面相』につづくシリーズ第二弾で、昭和二十一(一九四六)年春の物語です。『たかが殺人じゃないか』は、副題のとおり「昭和二十四年の推理小説」でしたから、これはその三年ほど前の物語ということになります。
 敗戦からほぼ半年、疎開していた少年探偵団の団員たちが、少しずつ東京に戻ってきました。焼け跡には復旧の槌(つち)音が響いています。
 そんなある日、団員の羽柴君の家に明智(あけち)探偵と小林少年の偽物が現れ、怪人二十面相に奪われないようにと、同家秘蔵の黄金の厨子(ずし)を預かっていきました。二十面相の変装だったことはいうまでもありません。
 これはいわば明智探偵に対する挨拶(あいさつ)がわりでした。二十面相はその後、銀座の美術店で中世の魔道書を、名古屋の映画館で国宝級の屏風(びょうぶ)絵をだまし取るなど、これ見よがしの暗躍を続けます。そしてついに、奥多摩の学校建設予定地で、怪人と名探偵が直接対決する日がやってきます。
 この最後の事件で、小林少年は二十面相配下の少女ミツルと恋仲になり、明智探偵と二十面相も、背中合わせの友情で結ばれて、共通の敵に立ち向かうことになります。
 著者は、この血わき肉おどる恋と冒険の物語を、乱歩ゆずりの「ですます調」の文体を駆使して、わかりやすく読者に語りかけます。
 結末近くで、二十面相は車もろとも峡谷に転落して炎上しますが、あの怪人が簡単に死ぬはずはありません。次回作が楽しみです。
(光文社・1980円)
1932年生まれ。作家。著書『仮題・中学殺人事件』『深夜の博覧会』など多数。

◆もう1冊

『江戸川乱歩名作選』(新潮文庫)

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