ミャンマー国軍から解放の北角さん、拘束時の過酷な実態を明かす 虚偽ニュース拡散「でっち上げ」

2021年5月16日 22時40分
 ミャンマーでクーデターで実権を握った国軍に拘束され、約1カ月ぶりに解放されたフリージャーナリスト北角裕樹さん(45)が、本紙の電話取材に応じた。拘束の理由となった虚偽情報の流布の罪について「全くのでっちあげだ」と批判。不当な捜査の実態を明かした。(望月衣塑子)

ミャンマーでの収監から解放され、成田空港に到着し取材に応じるフリージャーナリスト北角裕樹さん=14日午後10時34分

◆全く身に覚えのない行為

 北角さんは4月18日、最大都市ヤンゴンの自宅で逮捕され、その後、訴追された。収容先は郊外のインセイン刑務所だった。
 罪に問われた内容は、知人のミャンマー人の男性映像作家が撮影した反クーデターのデモの動画を2000ドルで買い取り、フェイスブックに投稿し、偽のニュースを流布したという、全く身に覚えのない行為だった。

◆証拠に基づく考え方ない

 逮捕後、3日間で7、8回の取り調べを受けた。捜査員は机をたたき、おじけづかせようとした。
 容疑を否認したが、ミャンマー語の供述調書を通訳に読んでもらうと「そのことについてはよく分からない」となっていた。警察に抗議すると「捜査に協力しないから俺らが好きにやる」と言われたため、調書へのサインを拒否した。
 「捜査当局には、物的証拠に基づいて訴追するという考え方が全くない。自分が映像作家にどう金を渡し、どの動画をいつ投稿したかも特定せず訴追された。根拠なく映像作家の資金源を洗っているようだった」と警察の異常な取り調べを批判した。

◆「他の政治犯には拷問も」

 それでも北角さんは「自分はVIP扱いだった」と言う。
 「映像作家をはじめ他の政治犯は、軍の施設に連れて行かれ、凄惨な拷問に遭った。目隠しで後ろで手錠され、コンクリートの上にひざまずかされ尋問を受け、否定するとこん棒で殴られたという。トイレに行かせてもらえず、失禁したら殴られたり、食事を2日間与えられなかったりした話も聞いた」と明かす。
 3月には、北角さんが取材した国民民主連盟(NLD)幹部のキンマウンラットさん=当時(58)=が自宅から治安部隊に連行され、翌日遺体となって帰ってくる出来事があった。腰や手にあざがあり、支援者が医師に問い詰めたが「心筋梗塞で死亡した」と答えるだけだったという。
 北角さんは刑務所で独房に収容され、共有スペースに出られた。閣僚や米国籍のミャンマー人、報道機関の幹部ら11人が同様に収容されていた。書くことが禁止されていたので、落ちていた鳥の羽根をコーヒーに浸し、紙切れにメモを取り、記録を残した。
 「インセイン刑務所には数百人くらい収容され、多くの収容者は100人単位で、体育館のような場所に毛布なしで雑魚寝させられていると聞く」と語る。

◆逮捕後の差し入れに感謝

 逮捕後、せっけんやコップ、レトルトカレーなどの差し入れが届いた。「『自分の逮捕を知っている人がいる』と分かり、ほっとした」と振り返る。日本大使館を経由し、ふりかけや歯磨き粉も届いたといい「とてもうれしかった」と支援への感謝を口にした。
 訴追された北角さんは今月4日、第1回目の審理で裁判所に出廷した。映像作家からお金をもらったとされて訴追された学生ら5人もいた。
 北角さんは「警察はデモをした学生らを逮捕し、彼らを支援していた映像作家を標的にした。彼と顔見知りだった自分を資金源とみて逮捕したのでは」と推察する。
 北角さんは13日、刑務所の担当者に突然、解放を告げられ、14日に帰国した。

◆「仲間の勇気に応えたい」

 今後について「国軍の弾圧で追い込まれているミャンマーの仲間たちが救われるような発信をしていきたい。現地でデモを取材している時、『世界にこの状況を伝えて』と、ミャンマーの人々が自ら警察の盾になり、撮影や取材をさせてくれた。彼らの勇気に応えたい」と力を込める。
 現在、日本のミャンマーへの新規ODA(政府開発援助)はないが継続案件はある。北角さんは「ミャンマー民主化を後押しする計画など、当初の目的を果たせず効果を上げてないものもある」と指摘。
 クーデター前に北角さんが関わったODAの事業には「ミャンマー政府の自由なメディアの言論活動への対応」という事業もあったという。「当時の政府には、しっかりメディアに説明しないと誤報を出すよと教えていた。国が民主化する過程では、政府に批判的なメディアへの対応は、必要不可欠なものだったから」と話す。

◆日本からの金の流れは? 今一度判断を

 しかし、現在ミャンマーのメディアは次々と国軍につぶされ、政府の一方的なプロバガンダだけが垂れ流されており「日本の税金が、クーデターによって無駄になったことに、日本の納税者はもっと怒らないといけない。ODAの継続案件への見直しが急務ではないか」と、疑問を呈した。
 国軍系企業をビジネスパートナーとしてきた日系複合商業施設や飲料メーカーもある。国軍の資金源に使われていたとみられる。
 北角さんは「企業は利益だけに目を向けるのではなく、国軍による市民への弾圧・暴力という国際社会の批判を真摯に受け止め、長期的にみて事業継続が望ましいのかをいま一度、判断してほしい」と語った。

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