アジア系への暴力事件、日本人も被害 少数派間の連帯不可欠

2021年5月18日 06時00分
◇遠い融和 狙われるアジア系(下)
 アジア系に対する暴力事件では、黒人ら差別を受ける側の少数派が加害者のケースも目立ち、根深い問題をさらに複雑にしている。

◆男はわざわざ身を乗り出して私を狙った

 2月25日夜、西部ワシントン州シアトルの中華街で、地元高校の日本語教師・那須紀子さん(44)は、パートナーの白人男性と並んで歩いている時、背の高い黒人の男から突然、石を詰めた靴下で顔を殴られた。鼻3カ所とほお1カ所、歯2本を折る大けが。直後は「金銭目当てか、暴行目的か、なぜ襲われたのか、分からなかった」という。

(右)襲撃された直後、病院の緊急医療室に運ばれた那須さん=本人提供  (左)オンライン取材で事件当時を振り返る那須さん

 直後に運ばれた病院の緊急救命室で、白人女性医師から「アジア系だから狙われたのでは」と指摘されて初めて憎悪犯罪(ヘイトクライム)を意識した。医師は夫がアジア系で、やはり中傷被害を受けたことがあると説明。その1週間後、那須さんは防犯ビデオを見て憎悪犯罪と確信した。「男はパートナーの横からわざわざ身を乗り出して私を狙っていた」からだ。

◆男は起訴されたが、検察官「証拠がない」

 男はその後、第2級暴行罪などで起訴された。だが憎悪犯罪は適用されていない。検察官は、男が無言で犯行に及んだことを理由に「悪意を持って故意に犯行に及んだ十分な証拠がない」と述べたという。
 「これでは不当な暴力がますます横行する」。懸念した那須さんは3月13日、事件現場近くで開かれた人種差別抗議集会で声を上げた。事件当時に持っていたバッグや車のキーを掲げて「男はこれらを簡単に奪えるのに奪わなかった。単に私を殴りたかったのだ」と強調。「事件後、見知らぬ多くの人が憎悪の対象になった経験を共有してくれたが、加害者が放置されていることにゾッとする。(厳罰化による)正義を求めるべき時だ」と訴えた。

事件後の市民集会で憎悪犯罪の撲滅を訴える那須さん(左から2人目)。左に座っているのがゴセットさん=那須さん提供

◆人種に関係なく連帯することが大事

 「犯人は黒人だったんだね」。集会で那須さんに元郡議のラリー・ゴセットさん(76)が語りかけた。1960年代に地元ワシントン大で黒人学生運動を率い、急進的な黒人解放闘争を展開したブラックパンサー党のシアトル支部を立ち上げた市民活動家だ。
 ゴセットさんは当時、黒人仲間から批判されながらも日系などアジア系と連帯して少数派学生の地位向上に努めた。第2次大戦時に日系人が人種差別で強制収容され、黒人らも「ジャップ」と侮蔑していた歴史を知っているからで「差別経験を共有する少数派同士の協力がなければ、真に民主的な社会の実現はあり得ない」と強調する。
 ゴセットさんは集会で「どんな人種のグループにも良い人と悪い人がいる。黒人、アジア系、ヒスパニック系、先住民、あるいは白人も含めた良い人たちで差別に反対するうねりをつくっていこう」と訴え、喝采を浴びた。那須さんも思いは同じだ。「だれでも被害者にも加害者にもなり得る。人種に関係なく連帯することが大切だ」(前アメリカ総局・岩田仲弘)

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