最高裁、国の規制遅れ批判 建設石綿訴訟 「1975年までにマスク義務づけるべき」

2021年5月18日 06時00分
 建設現場でアスベスト(石綿)による健康被害に遭った元労働者らが損害賠償を求めた訴訟で、最高裁が「1975年までに防じんマスクの着用を義務付けるべきだった」と、国の規制の遅れを明確に批判した。国と建材メーカーの責任を認めた17日の判決を受け、国は被害者に和解金を支払う方針を固めたが、被害を拡大させた責任は重く残る。(山田雄之)

 ◆72年に「発がん性」

 かつて「奇跡の鉱物」と呼ばれた石綿。耐火性があり、熱や摩擦に強く安価で加工しやすい。50年代以降、カナダや南アフリカからの輸入原料をメーカーが断熱材などに加工し、建設事業者に出荷。建設現場で労働者らが扱った。
 だが、空中に飛散した粉じんを大量に吸うと石綿肺を発症することが分かり、72年には世界保健機関(WHO)が発がん性を指摘。これを受けて国は75年、建設事業者に吹き付け作業を禁じるなどしたが、労働者にマスク着用を義務付けることはしなかった。
 石綿の危険性が広く知られるようになり、国は2004年から使用を原則禁止し、ほぼ流通しなくなった。最高裁判決は1975年から29年間にわたり国が規制を怠ったことを「著しく合理性を欠く」と批判した。

 ◆メーカーにも責任

 元労働者らは2008年以降、各地で国やメーカーを相手取り、損害賠償を求める訴訟を相次いで起こした。地裁や高裁で判断が割れたのが、「一人親方」と呼ばれる個人事業主を救済対象とするか否かだった。
 当初は労働法令の「労働者」に当たらないとして、救済しない判断が続いた。しかし東京高裁が18年3月の判決で、労働法令の目的は「快適な作業環境の実現だ」として救済に道を開くと、同様の判決が続き今回確定した。
 メーカーの賠償責任を認めるかどうかでも、下級審は判断が分かれた。労働者が多くの現場を渡り歩くことや、健康被害が現れるまで15~50年の潜伏期間があることから、原因となった建材の特定は難しい。
 最高裁は、加害者が複数いる場合に連帯責任を負わせる民法の「共同不法行為」を類推適用し、「影響を与えた範囲で賠償責任を負うべきだ」と判断。賠償額は今後、高裁の差し戻し審で算定されるが、なお時間を要する。

 ◆不作為で被害拡大

 最初の提訴から13年。弁護団によると、被害に遭った原告の7割が既に亡くなった。同種訴訟は今回の4件を含め33件、原告は計約1250人。被害者の総数は約9000人に上るとされ、今後も年500人規模で増えると予想される。
 与党の石綿対策プロジェクトチーム(PT)は17日の判決後、国が原告1人当たり最大1300万円の和解金を支払う内容の和解案を決定。未提訴の被害者も幅広く救済するため、和解金と同規模の金額を給付する制度の創設も盛り込んだ。原告弁護団は和解に応じる方向という。
 専修大の阪本将英教授(環境経済学)は「WHOは早くから石綿の健康被害を問題視しており、国は1975年以前から危険性を認識できたはずだ。国は経済発展を優先し、長年にわたり放置した。被害者を増やした責任は重い」と指摘した。

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