早稲田は小宇宙 イタリア人が魅せられた 街と歴史

2021年5月18日 07時05分

神田川から椿山荘(奥)にかけての風景

 イタリア・ベネチア大学教授、ローザ・カーロリさん(61)が早稲田界隈(かいわい)をくまなく歩いて街と歴史をつづった「土地の記憶から読み解く 早稲田」(勉誠出版)を出版した。神田川を挟んだエリアを「江戸・東京のなかの小宇宙(ミクロコスモ)」と位置付け、深い「早稲田」を描いている。

◆主役は神田川

 ローマ出身。専攻は日本近現代史、沖縄史など。ローマ大で源氏物語や近現代の日本文学作品、日本史などを学び、一九八四年、初来日。九〇年代に早稲田大で学び、帰国。二〇〇八年には法政大国際日本学研究所の客員所員、一八年には同大江戸東京研究センターの客員研究員として招かれた。
 〇一年以降は「水の都」として知られるベネチアで暮らす。「公共の乗り物は運河を走る船だけ」(カーロリさん)で、自然と歩く習慣が身に着いた。約三十回を数える訪日時も早大近くのゲストハウスを拠点に街を歩き回り、次第に早稲田界隈が研究の対象に広がった。

椿山荘を訪れたローザ・カーロリさん=2014年秋ごろ撮影(本人提供)

 同書に登場する「早稲田」は、文京区の護国寺から日本女子大、椿山荘にかけての目白台一帯、南側に下り、神田川を挟んで新宿区の早大キャンパス周辺、東京メトロ早稲田駅や戸山公園の一帯。
 ベネチア大に留学した際にカーロリさんと知り合った訳者の一人、大内紀彦さん(45)は早大出身。翻訳にあたり、エリアを歩き回ったが「地元と思っていたのに、意外と知らない所が多かった。地理、散歩案内の書でもある」と話す。

◆江戸の「へり」

早稲田大の大隈講堂

 記者も本を片手に歩いた。目白台から南北に延びる二つの幽霊坂のうち、南側の坂を下る。坂の両側には高い塀が設けられ、カーロリさんが「あたかも幽玄の世界に足を踏み入れたような、薄暗い空気に包まれている」と記しているとおりの坂だった。
 坂を下りると肥後細川庭園。もともとは熊本藩大名、細川家の下屋敷で起伏に富んだ庭園と池が広がる。カーロリさんと親交のある小林ふみ子法政大文学部教授(47)は「早稲田界隈は江戸のへり(近郊)にあり、江戸市中の人が『ちょっと遊びに行く所』。風光明媚(めいび)で大名が下屋敷を造りたくなった」と説明。「この本は時代を串刺しにして今に伝えている」と指摘する。

ローザ・カーロリさんの著書

 カーロリさんが「主役を演じている」という神田川沿いに進むと、関口芭蕉庵に。川を渡り、早大に向かうと大隈講堂やキャンパス街が広がり、穴八幡神社、戸山キャンパス、戸山公園へと続く。早稲田駅近くには夏目漱石生誕の地も。
 カーロリさんに影響を与えた法政大江戸東京研究センター初代センター長で特任教授の陣内秀信さん(73)は「早稲田界隈は港、千代田区のように大規模開発が集中せず、コミュニティーや生活の営みが受け継がれ、性格の異なるエリアが共存する」と解説する。
 カーロリさんは「歩」という漢字は「止」と「少」の組み合わせからできている、と指摘する。「移動するために、時折立ち止まり、休みを取る必要がある」。コロナ禍でベネチアから観光客が消え、「歩けないほどの人がいたのがウソのよう」とカーロリさん。「歩く度に新しい発見がある」と来日できる日を心待ちにしている。
 文と写真・加藤行平
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