雑誌の未来

2021年5月18日 07時54分
 出版不況が言われて久しい。活字離れが進む中、長い歴史を誇る雑誌が休刊する例も。それでも、中には元気な雑誌もあれば、電子出版や通販で活路を開こうという動きもある。雑誌の未来を展望する。

<出版市場の動向> 全国出版協会・出版科学研究所によると、2020年の出版市場(推定販売額)は、紙、電子版を合わせて前年比4・8%増の1兆6168億円と2年連続で前年を上回った。「鬼滅の刃」などコミックが好調だった。一方、紙の雑誌は前年比11・2%減の3700億円、電子雑誌は15・4%減の110億円と苦戦している。

◆まねできぬ強み磨く 「週刊文春」編集局長・新谷学さん

 世の中が加速度的にデジタルにシフトしている中、紙の雑誌は非常に大きなハンディキャップを背負っています。情報が遅く、値段が高く、わざわざ雑誌そのものを買う手間がかかるという三重苦です。どうしても、人々は安くて便利で面白いものに流れるので、付加価値を与えなければ売れません。
 私が週刊文春の編集長になって考えたのは、他が簡単にまねできない文春の強みは、やはりスクープだということです。それは紙でもデジタルでも変わらないだろうと。紙の雑誌はスクープが出ていても、部数は徐々に下がっていくでしょう。しかし、それを補える収益をデジタルで上げられれば、負のスパイラルには陥りません。編集長六年、編集局長三年の計九年間、「稼げるデジタルシフト」に取り組み続け、今ではかなり手応えを感じています。
 やってみて改めて分かったのは、デジタルの世界では、そこでしか読めないもの以外は価値がないということです。その究極の形の一つがスクープでしょう。瞬く間にコモディティー化されるような、記者クラブ向けの会見の内容などをニュースとしてインターネットに上げてもお金は払ってもらえません。
 スマートフォン上であらゆる情報がフラット化している現在、限られた時間やお金を使ってもらうには、看板を信頼してもらうしかありません。週刊文春はスクープにコストをかけ、リスクを取ります。記事にプライドを持ち、取材過程や書いた理由も必要に応じて丁寧に説明します。読者に理解してもらうこと、看板を磨いていくことが生命線だからです。
 今年三月に電子版を立ち上げましたが、スクープによる問題提起で社会の関心が高まると一気に会員が増えます。応援してくれる読者との接点として非常に育てがいがあるメディアで、記事によって事態が動いていく中、リアルタイムで見解を示せる武器にもなると考えます。
 社会的に意義のあるスクープを目指す一方、収益が見込みやすい俗情に結託するような記事もやります。本来、雑誌というのは「雑」を記すもの。一色に塗り込めるのではなく、あらゆるものがぶちこまれた、ごった煮です。原点にあるのは「やっつけよう」とか「こらしめよう」ではなく、「この人、面白いな」という人間への興味です。 (聞き手・清水祐樹)

<しんたに・まなぶ> 1964年、東京都生まれ。89年に文芸春秋に入社。「Number」「マルコ・ポーロ」「文芸春秋」編集部、「週刊文春」編集長などを経て2018年から現職。

◆デジタル戦略が鍵に 富士山マガジンサービスGM・松延秀夫さん

 当社の調べでは、昨年一年間で休刊した雑誌は六十四タイトル。今年はすでに三十五タイトルが休刊しています。
 業界が右肩下がりを続ける中、当社のインターネットによる定期購読販売支援事業は、逆に新規のお客さまが増え続け、現在七十万を超える利用者がいます。書店が減り、雑誌は好きだけれど、近くに買える場所がないという状況で、定期購読を選ぶ傾向が顕著です。国内の定期購読の利用率は目下一割強ですが、米国では八割を超えており、日本でも三〜五割を目指せるのではと考えています。
 当社が取引している出版社は約千社、取り扱う雑誌は一万三千点ほどで日本最大規模です。その中で、購読者が急伸しているのが「週刊文春」です。この一年で六千人から一万二千人に倍増です。文芸春秋さんとは「早期に三万人を目指そう」と各種提案をしています。当社の子会社が運営支援をしている、食のお取り寄せサイト「文春マルシェ」は週刊文春に毎週広告を出しており、購読契約者にクーポンを出しているので、読者は食のリアルな商品も知ることができます。雑誌のファンに対する、こうしたメンバーシップサービスが、今後の生き残りの鍵になると考えています。
 もう一つの鍵はやはりデジタル戦略です。デジタルへのシフトが遅れ、デジタルでの収益を上げられていない出版社は紙の雑誌の継続が難しくなるでしょう。広告料依存から踏み出して、デジタルならではの強みである、コンテンツ課金に進めるかどうかも、大きな分かれ目になると思います。
 課金には、さまざまなスタイルがありうるでしょう。私自身もパッケージの電子雑誌という形ではなく、個々のコンテンツを必要な人に届ける手法を模索しています。また、人工知能(AI)などを活用した、より低コストの要約や多言語翻訳にも可能性を見いだしています。漫画のように世界規模でコンテンツが配信されるようになれば、雑誌の未来は大きく開けていくはずです。いかに面白いものをつくるかということだけを考えているのが良い編集者だという時代もありましたが、本来、出版社は製造業です。コスト意識を持ち、デジタルと紙の両方に目配りしながら、事業推進できる若い編集者をプロデュースしたいという夢を持っています。 (聞き手・中山敬三)

<まつのぶ・ひでお> 1968年生まれ、愛知県出身。外資出版社での編集長などを経て、2018年、オンライン書店のGMに。電子配信子会社「magaport」、通販子会社「IDEA」社長兼務。

◆紙、滅びると思わない 宝島社第3雑誌局長・渡辺佳代子さん

 よく「雑誌業界は大変ですか?」と聞かれるんですが、「ファッション誌を読む人がゼロになるわけではないから、読者を総取りできればいいかな」と答えています(笑い)。部数を減らさない努力をしているし、実際市場シェア率は増えているので。
 最初からうまくいったわけではないです。「sweet」の編集長になった時は本当に売れていなかった。理由を知ろうと書店の雑誌売り場で観察したことがあります。五人ぐらいの女性が雑誌を立ち読みしていて、全員がうちの雑誌を読んでくれていた。買ってくれるかなと思ったら、分厚いほかの雑誌を買ったんですね。だったら付録を付けて梱包(こんぽう)し、立ち読みできない形にしようと思ったのが、二〇〇二年に付録を始めたきっかけです。
 オリジナルの付録を付けたのは女性誌で初でした。各ブランドと話し合い、企画から素材選びまで編集部が関わって毎号出していく。毎回どうやって読者を驚かせようかと思っていました。それが軌道に乗って女性誌ナンバーワンになりました。
 雑誌本体だけで勝負したいと思った時もあります。でも、読者にとって付録はブランドのサンプルではありません。付録も雑誌の一部なんです。それを一番知っているのは私たちだという誇りを持ってやっています。
 大事なのは雑誌の世界観。誌面に起用するモデルも、世間で人気だという理由では選びません。うちの雑誌と心中してくれそうな人を選びます。そういう人は雑誌のチームの一員のように世界観をうまく表現してくれるし、この場で何かを成し遂げたいという気合がある。
 ただし、うちは専属モデルという形では囲い込みません。そこは逆に自分たちの雑誌の力を過信していない。いろんな雑誌にたくさん出てもらったほうが世の中に伝わると思っています。浮気してもいいから、本命はうちよと(笑い)。
 雑誌の未来を考えるとき、インターネットとどう向き合うかは大事だと思いますが、答えは出ていません。正直、紙が滅びるとは思っていないんです。モノとしての雑誌が好きな人はいなくならないだろうって。だから、業界全体が先細りしていくことを前提にした話に加わりたくない。未来なんて、やってみないと分からないんですから。 (聞き手・大森雅弥、清水萌)

<わたなべ・かよこ> 1971年、千葉県生まれ。97年に宝島社入社。99年から昨年まで「sweet」編集長を務め、女性誌ナンバーワンにした。現在は現職兼「オトナミューズ」編集長。

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