<社説>アスベスト判決 命あるうちの救済へ

2021年5月18日 08時02分
 アスベスト(石綿)の健康被害に対する国の対策は、あまりに遅かった。権限の不行使といえる。最高裁は判決で国やメーカーの賠償責任を認めた。元労働者たちの命あるうちに救済をすべきだ。
 耐火性や耐熱性に優れたアスベストは、安価な断熱材として使われた。戦後の高度成長期に大量輸入され、約八割が建材に使用されたといわれる。
 だが、呼吸障害を引き起こす石綿肺や中皮腫、肺がんなどの健康被害をもたらす原因物質でもあった。長い潜伏期間から「静かな時限爆弾」とも呼ばれた。
 戦前からアスベストの健康被害は問題になり、一九七二年には世界保健機関(WHO)などが発がん性を指摘した。欧州では段階的に使用禁止となった。
 ところが国内では七四年に輸入量がピークに達し、被害も拡大した。七五年にアスベストの吹き付け作業などを禁じたものの、製造・使用が原則的に禁止されたのは二〇〇四年のことだ。国の対応は後手後手に回った。
 最高裁はこの間、国が規制権限を行使しなかったことを「違法状態」と断じた。重篤な健康被害の危険性の周知もさまざまな規制も可能だったはずだ。それゆえ最高裁は国の無策を「著しく合理性を欠く」と指弾したのだ。
 労働法令では「労働者」とみなされない個人事業主である「一人親方」についても、労働者と同様に「保護」の対象であると判決は明言した。当然である。
 どのメーカーの建材が被害を起こしたか特定できなくとも、一定の条件でメーカーに対する賠償責任も認めた。労働者は多くの建設現場で働くため、現実的な目で司法が判断したといえる。
 問題なのは、今回の原告約五百人のうち、元労働者の七割が既に死亡していることだ。苦しみつつ無念の日々を送ったことだろう。一刻も早い救済が求められるのはもはや明白である。
 元労働者の大半は労災認定されているものの、現在の被害救済制度では、医療費や月約十万円の療養手当が給付されるにとどまる。重い障害などに悩まされる被害者たちの要望とは隔たっているのが現状なのだ。
 与党のプロジェクトチームは、国が支払う和解金を一人最大千三百万円との案をまとめたが、全国規模の原告数は約千二百五十人。未提訴の人も多い。被害者らが納得できる救済制度の早期創設がせめてもの国の務めだ。

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