過去への旅「私」知る 自分史のススメ 生きがいや脳活にも◆写真1枚で気軽に

2021年5月20日 07時19分

書籍を出版した石井勝子さん(右手前)と話す自分史活用推進協議会の河野初江代表理事(左手前)=4月10日、横浜市戸塚区で

 コロナ禍で旅行がままならない日々。でも自らの歩みを「自分史」にまとめることで、懐かしい思い出を旅することができる。自分史は本だけでなく、手作りの冊子や動画、スライドショーなど多様化。親の自分史の制作を専門業者に依頼し、子からプレゼントすることもできる。 (土門哲雄)

◆「出会いで成長」実感

 「書いているうちに、どんどん思い出してきて…」。三月に自分史を本にした横浜市金沢区の石井勝子さん(88)。一般社団法人「自分史活用推進協議会」代表理事の河野(こうの)初江さん(69)の自分史サロンに通い、二年かけて書き上げた。
 子や孫、ひ孫、親戚らに残そうと、学童疎開した戦時下の日々や若くして亡くなった父や弟のことなどをパソコンでつづった。子どものころからの写真を収録し、昔の新聞を調べるため、国会図書館にも足を運んだ。「やり遂げてホッとした。すてきな本になった」と満足そう。百冊作って家族や友人に贈った。
 東京都足立区の河西稔量(としかず)さん(80)も、おもちゃ用電線製造の会社経営に汗を流した日々を本にまとめた。「失敗の歴史でもあるが、いい人たちに出会ってきた。人間は出会いで成長する」としみじみ。本はかつての仕事仲間にも贈った。
 河野さんによると、薄手の冊子は十万〜三十万円ほど。本格的な本は八十万円ほどからで、部数とページ数によって違ってくる。自分史は国会図書館や「あやめ自分史センター」(豊島区)にも所蔵される。
 「自分史のスタイルはさまざま。気軽にできそうなものから体験し、過去へと旅する楽しさを知ってもらえたら」と河野さん。生きがいや脳の活性化にもつながるという。協議会は一分の動画で自分の物語を表現する「スマホ自分史大賞」も創設。受賞作をユーチューブチャンネルで公開している。

◆時代が浮き彫りに

河出書房の 河出岩夫代表

 「まずは写真一枚から自分史に親しんで」と呼び掛けるのは、河出書房代表で協議会理事の河出岩夫さん(53)。戦後七十年の二〇一五年、二十人の戦争体験をそれぞれ一枚の写真と文章でまとめた本を発行した。そのタイトルにちなんで「一枚の自分史」づくりを提唱している。何枚かたまれば短編自分史になる。
 河出さんによると、自分史という言葉は、歴史家の色川大吉さん(95)の本「ある昭和史−自分史の試み」(一九七五年)で使われて広まった。河出さんは「戦争、震災、コロナ…。どんな日々を生き抜いたのか、大勢の人が書き残すことで時代が浮き彫りになる。コロナ禍で家にいて、考える時間が長い今こそ、自分史を」と力を込める。
 「十代から全ての世代の人たちに自分史を活用してほしい」と呼び掛けるのは一般社団法人「シニアライフの相談窓口」理事で自分史活用アドバイザーの田和(たわ)真由美さん(47)。一〜五年ごとに「プチ自分史」を作るよう勧めている。
 A4用紙に写真を載せ、頑張ってきたことや人生の目標などを書き込む。「自らの歩みを振り返ることで、自分らしさに気付き、新しいことにチャレンジするきっかけになる」と話す。

◆親の歩み記しプレゼントに

こころみが制作した「親の雑誌」は全てが創刊号=東京都港区で

 東京都新宿区の坂理(さかり)次孝さん(41)は、父泰幸さん(79)の歩んだ道のりを振り返る冊子を古希(70歳)のお祝いとしてプレゼントした。
 高齢者や企業向けの支援事業を展開する「こころみ」に制作を依頼。担当者が取材して年表や写真を入れて構成した。同社は「親の雑誌」として2015年からサービスを始め、約800冊を作成。客の希望に応じてホームページにも掲載している。
 「教員だった父親がどんなふうに思い、考え、生きてきたか、断片的にしか聞いたことがなかったので、しっかり聞けてよかったし、楽しかった」と坂理さん。
 こころみの神山晃男社長(43)は「一人一人に価値のあるお話、その人にしか言えない言葉がある。親子のコミュニケーションツールにしてもらえれば」と話す。「親の雑誌」はフルカラー16ページで18万7000円(税込み)から。

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