親と同じ道歩む苦悩 『星落ちて、なお』 作家・澤田瞳子(とうこ)さん(43)

2021年5月23日 07時00分

(文藝春秋提供)

 歴史時代小説の書き手として、『若冲(じゃくちゅう)』(二〇一五年)などで数々の賞を受ける著者の新刊は、幕末から明治にかけて活躍した絵師河鍋暁斎(かわなべきょうさい)(一八三一〜八九年)の娘暁翠(きょうすい)(一八六八〜一九三五年)が主人公。偉大な父と同じ画業を歩む娘の、苦悩とともにある人生を描いた。
 狩野派の画風を基礎に浮世絵風を加え、自在に作品を生み出した暁斎が亡くなった時、とよ(暁翠)は二十二歳。師である父の<獄(ひとや)><軛(くびき)>から逃れられない年月が始まる。結婚と離婚、子育て、同じく絵師である兄周三郎(暁雲)との確執、父の門弟たちやその家族との関わり…。超えられぬ父の影を意識しながら懸命に生きるとよだけでなく、それを取り巻く人々の生きざままでが胸に迫る。
 「どんな家族でも小さなしがらみやトラブルってあるんじゃないかと思うんです。特別な誰かではなく、われわれと同じように悩みを抱えて生きる一人の人間、というところに目を向けてもらえたら」
 今作の舞台である明治−大正は、これまでに手掛けた最も新しい時代。それなりに資料はそろうものの、「現在と歴史の汽水帯みたいなところで、分からないことの方をすくい上げて小説に書くという面白みを味わえました」と振り返る。
 さらに、今まで女性を主人公に据えて真正面から人間を描いた作品は意外に少なかった。二〇一七年に他界した、信頼する先輩であり仲間だった作家葉室麟(はむろりん)さん(享年六十六)から「真面目に女性を書いてみなよ」と言われていたといい、「ひょっとしたらそれに対する回答になったのかな」との思いもある。
 一〇年のデビューから十一年。「わたしたちが生きている時間は長い歴史の中の一瞬にすぎないからこそ、過去にあったいろんなことをすくい上げたいし、物語のほんのワンシーンでも確かに生きていた人たちを書きたい」との考えは一層強くなった。自分の知らないことを知りたい、という純粋な欲求が執筆の原動力であり、「調べているとわくわくするんです」。書きたい題材は枚挙にいとまがない。
 現在も母校・同志社大の研究室でアルバイト職員として週一日の勤務を続け、四月からは客員教授も兼ねる。「今回、『意外と近代いけるんじゃない?』と自信がついた。さらに書きたいことが増えちゃいそうです」。
文芸春秋・一九二五円。 (北爪三記)

関連キーワード

PR情報

書く人の新着

記事一覧