<社説>米の大きな政府 貧富の格差の是正図れ

2021年5月22日 08時01分
 格差を高じさせた「小さな政府」から「大きな政府」へ、バイデン米大統領が舵(かじ)を大きく切った。民意の後押しも受けている。ただし公権力が巨大化して民間活力を抑圧しないよう注意してほしい。
 富める者がより豊かになれば、貧しい者にもその恩恵がしたたり落ちる−。新自由主義者がもてはやしたトリクルダウン理論である。バイデン氏は就任後初めて行った施政方針演説で、トリクルダウン理論は「機能したことはなかった」と断じた上で、中間層を起点に全体の所得の底上げを図る姿勢を示した。
 具体的には、富裕層への増税で調達する一兆八千億ドル(約百九十六兆円)を育児、教育支援に振り向けて格差是正を目指すという。
 バイデン政権はこれ以外にも大型経済対策を矢継ぎ早に打ち出している。家計への現金給付や失業給付を盛り込んだ一兆九千億ドルのコロナ救済策は、議会の承認を取り付けた。老朽インフラの刷新、地球温暖化防止、製造業てこ入れに二兆ドルをつぎ込むインフラ投資案も示している。
 昨年のギャラップ社の世論調査では、政府が難題克服へより大きな責任を果たすべきだとする回答は54%に達し、一九九二年以降では最多になった。一兆九千億ドルのコロナ救済策も七割近くの国民が支持している。
 八〇年代にレーガン米政権とサッチャー英政権はそれぞれ、規制緩和や民営化、金融・証券改革(ビッグバン)などの新自由主義的経済政策を進めた。
 七〇年代の米国はインフレと景気停滞が併存するスタグフレーションに陥り、英国も「英国病」と呼ばれた経済の行き詰まりに悩んでいた。
 政府の関与とともに財政支出も減らす「小さな政府」を推進する新自由主義は、米英を経済再生へ導いた。半面、重い副作用ももたらした。貧富の格差である。富は富裕層に集中し、福祉予算の切り詰めもあって低所得層は一層貧しくなった。
 バイデン政権が格差是正を重視するのは歓迎できる。時代の要請でもあろう。
 ただ、コロナ対策だけでもトランプ前政権時代の分も含めて計六兆ドル近い規模だ。景気が過熱し金利の急上昇やインフレを招かないか懸念する。
 市場は万能ではない。一方で政府の過度の介入は競争を阻害する。「大きな政府」の運営には巧みな手綱さばきが不可欠だ。

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