「置いてやる」から「戦力しかいらない」へ…シニアを選別する企業側 70歳就業法の厳しい現実

2021年5月23日 21時16分
 シニアが70歳まで働けるよう企業に努力義務を課す改正高年齢者雇用安定法が4月に始まった。「70歳定年時代」ととらえる向きもあるが、65歳までの希望者全員雇用と違い、企業は対象者を選別できる上、雇用以外の選択も可能。コロナ禍で業績が厳しい企業も多く、人件費増になる雇用延長に及び腰も目立つ。働き続けたいシニアに険しい道が待ち構える。(久原穏)

◆「65歳以上も雇用継続」は上位2、3割の狭き門

 「70歳までの雇用を望んだ100人のうちクリアしたのは30人程度。厳しい基準だが漫然と働くのは意味がなく(選別は)必要だ」
 損保ジャパンで今も働き続けるAさん(68)は定年後の実力主義を肯定した。
 同社は60歳定年。65歳までの再雇用に加え、同じ処遇のまま70歳まで働ける制度を2018年4月に始めた。ただし再雇用後の人事評価で優秀な人だけ。人数にして上位2~3割という狭き門だ。
 賃金は基本給が現役時の3割減となるが、現役と同じ評価体系で4段階に格付けし、1段階ごとに年間50万円程度の差を付ける。人事部の米山敬子ひろこ氏は「早めの準備が大事で、40代からセカンドキャリア研修に力を入れる」と話す。

◆シニア比率高く、戦力にしないと成り立たない

 カシオ計算機も、60歳定年後の再雇用者に成果主義の賃金体系を19年7月から導入した。現役時の6等級を細分化して12等級とし、従来制度と比べ年収が下がる人が出る一方、6割増となるケースもある。
 高齢者雇用の現状について、企業の人事管理に詳しい今野いまの浩一郎・学習院大名誉教授は「働きぶりを評価せずに一律の低賃金で『会社に置いてやる』といった処遇の企業が少なくない。成果を期待しないのは雇用といえない」と手厳しい。
 実力主義が目立ち始めた点は「今や高齢社員の比率は就業者の5人に1人。戦力にしないと会社がつぶれかねない」と指摘する。

◆「自己評価甘い人多い 冷静に自分見つめて」

 一方で、働き手側の意識改革が必要との声もある。安藤至大むねとも・日大教授は「自己評価が甘く、自分の市場価値をわかっていない人が多い。まずは冷静に自分のスキルや強みを見つめ直すことが大事」と注文する。
 内閣府の調査で60歳以上の過半数が「70歳ごろまで収入を伴う仕事を続けたい」と答えた。「70歳定年時代」の待望論が優勢だが、コロナ禍もあって企業の対応は鈍い。今野氏はこう警告する。「必要とされることが人間の尊厳にとって重要で、企業はどういう人材を必要としているかをシニアに示すべきだ」

◆70歳までの就業機会確保とは

 労働力確保のため、政府は高年齢者雇用安定法を改正、70歳まで働ける機会の確保を企業の努力義務とした。改正前は65歳まで希望者全員雇用を義務付けたが、企業の負担に配慮し、雇用以外に業務委託契約などの選択肢を加え、対象者の選別も可能とした。
 帝国データバンクが全国の企業に改正法への対応を聞いた調査(二月時点)では、対応未定の企業が約半数あるものの、「70歳までの継続雇用制度の導入」(25.4%)、「定年制の廃止」(5.1%)、「70歳までの定年引き上げ」(3.4%)と、自社で70歳までの雇用継続は「狭き門」であることが分かった。 

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