<社説>LGBT法案 「差別禁止」は不可欠だ

2021年5月24日 07時16分
 性的少数者(LGBT)への理解増進法案を超党派の議員連盟がまとめた。差別反対を掲げるが、自民党内の強い反対で行方は不透明だ。理念にとどまらず、実効性のある禁止規定を盛り込みたい。
 超党派の議連は六年前に発足した。開催予定の東京五輪・パラリンピックは多様性を掲げるが、性的少数者への差別禁止法が日本にはなく、成立が急がれていた。
 野党は行政機関や企業に就職などでの差別を禁じる差別解消法案を提出している。自民党も特命委員会が先月、「LGBT理解増進法」案の要綱を了承した。
 議連は法案の一本化に向けて協議を重ね、野党が差別禁止規定を取り下げる一方、自民党側は法律の目的に「差別は許されない」の文言を入れることで譲歩した。自民党内保守派の反発を予想しての判断だったが、実際、その後の同党の会議では反対論が渦巻いた。
 会議では「道徳的にLGBTは認められない」との意見も出たという。論外というほかない。こうした声を前に「理解増進」はもっともなように聞こえるが、この考え方自体にも危うさがある。
 それは差別とは少数者側の問題ではないという点だ。多数派の偏見の産物であるという原則への無理解が透けて見える。差別の解消は多数決に委ねる性格のものではない。被害に遭っている少数者の救済が、多数派の都合によって遅れることがあってはならない。
 日本で性的少数者の問題が衆目を集めてきたのは、この十年ほどだ。しかし、当事者らはそれ以前から異議を申し立ててきた。
 一九九〇年には東京都の施設が「青少年の健全育成に悪影響がある」ことを理由に同性愛者団体の利用を拒んだ。団体側は都を相手に損害賠償請求訴訟を起こし、九七年に勝訴判決が確定している。
 二〇〇〇年には同性愛者らが集まる都内の公園で強盗事件が連続して発生し、死者も出た。実行犯の少年らは「同性愛者は(自らの性的指向を隠したいため)警察に届けられないと思った」と供述。当事者団体などは、事件の背後に社会の同性愛者差別があると指弾した。
 理解の拡充は望ましいが、理解し合えるとは限らない。それでも平等の概念を柱に共生できる環境を整えることが、民主主義社会における政治の役割だろう。
 性的少数者への就職差別などは現在進行形である。実効性のある差別禁止規定を抜きにした法律では、当事者たちは救われない。

関連キーワード


おすすめ情報