日韓関係 修復の道 五味洋治・論説委員が聞く

2021年5月25日 07時24分
 戦後最悪とも言われる日韓関係。歴史問題をめぐる訴訟に加え、安全保障問題でもなかなか足並みがそろいません。現在、両国ともコロナ対策に追われており、関係改善は当面難しいとの悲観的な見方も強まっています。中国人の強制労働事件の和解交渉に関わった内田雅敏弁護士と、関係修復に必要な条件や道筋を考えました。

<歴史をめぐる訴訟> 2018年、韓国の最高裁にあたる大法院が日本企業に対して韓国人元徴用工への損害賠償を命じた。元慰安婦に関しては、今年ソウル地裁で別々の判決があった。1月は日本政府の責任を認めたが、4月は否定した。日本政府は、いずれの訴訟についても1965年の日韓国交正常化の際に解決しているなどと主張し、韓国側に対応を求めている。

◆双方の自発的和解を 弁護士・内田雅敏さん

 五味 元慰安婦の人たちが日本政府に賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は今年一月と四月に正反対の判決を出しました。どう受け止めていますか?
 内田 日本政府の責任を認めなかった四月二十一日の判決は、二〇一五年に日韓間で交わされた元慰安婦をめぐる合意を出発点とし、その不十分な点を補完せよと求める内容といえます。傾聴すべき見解だと思います。この機会を生かして、政治的解決を目指すべきです。
 五味 逆に一月八日の判決は日本政府の責任を認めました。韓国司法の中で見解が定まっていないようです。
 内田 一月の判決は、国際法の進化の中で慰安婦問題を重大な人権侵害だとし、主権免除の適用除外を認めました。このことは評価します。しかしこの流れが国際法の舞台で普遍的になるか、まだ何とも言えません。
 この後、文在寅(ムンジェイン)大統領が判決に「少し困惑している」と発言し、与党がソウル市長選で負けたことが、四月の判決に影響を与えたとも考えられます。結局、判決で歴史問題は解決できません。判決の執行では、謝罪もなく、恨みが残るだけです。歴史問題の解決は、当事者双方の真摯(しんし)な協議による自発的な和解が望ましいのです。
 五味 日韓では、植民地支配に関する歴史の捉え方に大きな違いがあります。乗り越えがたいようにも感じます。
 内田 歴史問題の和解には、やはり歴史認識の共有がないといけません。一九七二年、日中国交正常化を盛り込んだ共同声明はその前文で、「日本側は過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」とし、日中戦争についての両国の歴史認識に一応の共有がありました。
 ところが国交正常化をうたった六五年の日韓基本条約では、植民地支配についての歴史認識の共有がありませんでした。日本では、植民地支配に関する認識があいまいなままにされてきました。植民地の近代化を助けたという意見もあります。
 実態を知るべきです。創氏改名を行い、朝鮮半島に日本の神社をつくって日本国臣民であることを唱えさせる。併合前ですが、国王妃の暗殺までやった。今も靖国神社に朝鮮人戦没者を創氏改名したまままつっている。このようなことをしたのに、韓国側が「植民地支配は合法的だった」などとはとても言えない。六五年で解決したというのは間違いです。
 五味 日韓の間には九八年に「日韓パートナーシップ宣言」が出ています。ここに戻るべきだという意見もあります。
 内田 歴史認識の共有は、この共同宣言でようやく実現しました。当時の小渕恵三首相は、日本の植民地支配に対し「痛切な反省と心からのおわび」を表明し、過去の加害の事実を認めました。九五年の村山首相談話を踏襲したもので、歴代日本政府の公式見解です。
 金大中(キムデジュン)大統領は、小渕首相の表明を評価し、「未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力する」と語っています。形は別として、加害の歴史はどこの国にもあります。事実を認め謝罪することは、恥ずかしいことではなく、その国のしなやかな勁(つよ)さです。
 五味 文在寅政権は二〇一五年の慰安婦合意にあいまいな姿勢です。問題解決の障害になっているのではありませんか。
 内田 文大統領は、大統領選でこの合意への反対を公約の一つとして掲げ、当選しました。その経緯から、合意には明確には反対しないものの、積極的にも進めないという姿勢を取るしかなかったのでしょう。文政権は、市民運動とは一定の距離を置くなり、緊張関係を保つなりすることも必要でしょう。
 五味 内田さんは歴史問題の「解決」には、三つの条件が必要だと訴えていらっしゃいます。(1)加害の事実およびその責任を認め、謝罪する(2)謝罪のあかしとしての「和解金」を支払う(3)被害者らに対する追悼事業などを行い、同時に、同じ過ちを繰り返さないための歴史教育を行う−ということですが、それは日韓間でも可能ですか? 
 内田 もちろんそう思います。謝罪を歴史問題の終止符とさせないために、(3)が不可欠なのです。加害者側が、被害者・遺族側とともに(3)を誠実に継続することが、被害者・遺族側の気持ちを和らげ、謝罪が真摯なものであることが理解されるようになります。また、加害者自身も加害の事実をより深く認識し、将来への戒めを強くするようになるのです。
 私は第二次大戦中に労働を強制された中国人の元労働者らが提訴し、その後和解した西松建設中国人強制労働問題に関与しました。この場合も(3)が大切でした。和解発表の記者会見では、原告側は非常に厳しい表情だったのですが、一年後に広島に実際に記念碑ができ、会社側、地元を含めた関係者が参加して追悼式が行われました。原告側の顔つきは、見違えるように明るくなっていました。和解をしてよかったという気持ちが表情に出ていたのだと思います。
 五味 韓国との間で問題となっている元徴用工、元慰安婦問題とも、日本は過去の合意で解決済みという姿勢です。
 内田 慰安婦合意成立後、当時の安倍晋三首相は、記者団に、「最終的、不可逆的な解決を(戦後)七十年の節目にすることができた。子や孫、その先の世代に謝罪し続ける宿命を負わせるわけにはいかない」と強調しています。これでは順序が逆です。加害者側としての慎みと節度が欠如しています。歴史問題に「なかったことにする」解決はあり得ない。真摯な謝罪を受けて、被害者の方が許す、しかし忘れない。これはあくまで被害者が判断することなんです。
 五味 それでは一五年の合意の精神を生かす方法は何でしょうか?
 内田 この合意をきちんと文書化して被害者に届ける。できれば日本の首相、駐韓日本大使が被害者に直接届けることです。そして、毎年三月一日に行われる韓国の独立記念式典に日本の首相が参加できたら素晴らしい。腹をくくって植民地支配は誤りだったと言えば解決を見いだすことができると思います。
 元徴用工、元慰安婦問題について韓国政府も放置しているわけではなく、水面下でさまざまな提案をしているようです。そういう解決方法に日本政府も乗るべきです。被害者が生きているうちに、「癒やし」の気持ちを持ってもらうようにしなければなりません。歴史問題の解決は、最善というのはなかなか難しい。次善の策であっても、何らかの解決を図るべきです。

<うちだ・まさとし> 1945年、愛知県蒲郡市生まれ。早稲田大法学部卒、東京弁護士会登録。日弁連で憲法委員。通常の弁護士業務のほかに、中国人強制連行・強制労働問題(花岡、西松、三菱マテリアル)などの戦後補償や靖国問題に取り組む。著書に「元徴用工 和解への道」など。


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